第266話 ヒーローインタビューⅧ
広報の新川さんより、ベンチで待っているように言われた。
それはそうだろう。
移籍後初安打が、逆転サヨナラツーベース。
やっぱり僕は何かを持っているのかもしれない。
やがてヒーローインタビューの準備ができたようで、女性アナウンサーがマイクで話し始めた。
「さあ、今日のヒーローをご紹介します。
今日のヒーローは、札幌ホワイトベアーズの高橋隆介選手です」
ホームということもあって、多くのお客さんが残っている。
大歓声の中、僕はベンチを飛び出し、お立ち台に上がった。
ホームゲームの場合、ヒーローインタビューは二、三人呼ばれるものだが、今日は僕だけだった。
「放送席、放送席、今日のヒーローは、移籍後初ヒットが起死回生の逆転サヨナラツーベースとなった高橋隆介選手です」
ワー、パチパチパチ。凄い歓声だ。
僕は左手で帽子を取って上に挙げ、声援に答えた。
「まず、今のお気持ちを一言で言うと?」
「はい、サイコーです」
「9回ツーアウト一、二塁で、一点のビハインドの場面。
もし凡退したら、試合終了ですが、あの場面何を考えていましたか」
「はい、あきらめたら、そこで試合終了だと思っていました」
「パクリですね…」
「はい、先日映画を見たものですから…」
「本当は何を考えていましたか?」
「ここで打てたら、最高だなと思っていました。
何故か、打たなかった場合のことは、考えていませんでした」
「移籍後、なかなかヒットが出ず、苦しかったと思いますが、その1本がこの大事な場面で出たことについてはいかがですか」
「はい、サイコーです」
「打球が左中間に落ちた時のお気持ちは?」
「はいサイコーでした」
「二塁ランナーがホームインした後、一塁ランナーもホームインしたのが、リクエストになった時は何を考えていましたか?」
「はい、セーフになるように祈っていました」
「判定がセーフになった時のお気持ちは」
「サイコーの結果になってくれた、と思いました」
「えーと、隆盛といえば?」
「西郷です」
お茶目なアナウンサーだ。
「打席に入る前、麻生打撃コーチと何か話されていたようですが、何を話していたのですか?」
「えーと、素晴らしいアドバイスを頂きました」
「そうですか。
麻生コーチのアドバイスのお陰で打てたということでしょうか?」
「うーん、一応そういうことにしておいて下さい」
「今日のヒットで長かったトンネルを抜けたかと思います。
明日からも試合が続きますが、ファンの皆様に一言お願いします」
「えーと、泉州ブラックスから移籍してきた高橋隆介です。
これからも良いところでヒットを打てるように頑張りますので、応援よろしくお願いします!!」
「今日のヒーローは、土壇場で起死回生の逆転サヨナラツーベースを打った、高橋隆介選手でした」
ワーワー、パチパチパチ。
最後にまた大きな声援を受けた。
僕は帽子を取って、声援に答えた。
ブルペンカーに乗って球場を一周すると、また応援団の方々が僕の応援歌を演奏してくれた。
「打てよ、守れよ、走れよ
光と共に、蒼き旋風
高橋隆介」
札幌ホワイトベアーズの応援団の皆様はもちろん、泉州ブラックスの応援団にも感謝したい。
グラウンドを一周して、記念撮影を行い、ロッカールームに戻ると、残っていたチームメートが拍手してくれた。
僕は帽子を取って、頭を下げ応えた。
「良かったな。ようやくトンネル抜けることができて」と道岡さんが声をかけてくれた。
「はい、ありがとうございます」
「俺のおかげだよな」と麻生コーチ。
「はい、そのとおりです」
「俺のアドバイスのどこが役にたった?」
「えーと、忘れました」
ロッカールーム内で笑いが上がった。
「ほれ、記念球だ」
一軍マネージャーの石山さんがボールを渡してくれた。
「ありがとうございます」
札幌ホワイトベアーズでの初ヒットの記念球。
これは結衣にあげよう。
さあトンネル抜けた。
その先は夏の海が待っている。
きっとそうだ。そうに違いない。そうに決まった。
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