第122話 今年も早いもので秋
早いものでシーズンも終盤、9月になった。
チームは120試合を終えて、58勝58敗4引き分けの五分で、クライマックスシリーズ圏内の3位と1ゲーム差の4位に付けていた。
僕の成績は、67試合に出場し、95打数23安打の打率.242、ホームラン1本、打点10、盗塁11(盗塁死5)。
盗塁数はチームでも3位であり、それなりに一軍の戦力になっているのではないだろうか。
これまではこの季節になれば、来年も野球を出来るか不安になったが、今年は落ち着いて残暑厳しい日々を過ごせている。
今季は一度も二軍には降格していない。
このまま二軍落ちせず、シーズンを完走できたら、僕にとっては大きな快挙である。
チームのショートは、先日再昇格した伊勢原選手、そして泉選手と僕が日によってスタメン出場しており、突出した成績を残している選手はいない。
チャンスである反面、来季に向けてチームの重要補強ポイントになるだろうから、シーズン終盤ではあるが、アピールを続けたいところだ。
そんなある日、骨折していた額賀選手が二軍の試合に復帰した。
もし額賀選手が一軍昇格するとしたら、降格するのは誰だろう。
泉選手は打率.270で最近は守備も安定しているし、伊勢原選手もここに来て好調だ。
となると、降格するのは……。
「おい、高橋」
試合前練習が終了し、通路を歩いていたら後ろから声をかけられた。
声の主は栄ヘッドコーチだった。
「は、はい」
僕は最近、朝比奈監督や栄ヘッドコーチから声をかけられるとビクビクしている。
「靴のヒモがほどけているぞ。
気をつけろ。引っかかって転んだらケガするぞ」
良かった。
二軍降格じゃなくて。
今日はホームでの新潟コンドルズ戦。
ショートのスタメンは伊勢原選手だ。
最近の固め打ちでシーズン通算打率も.250を超え、ホームランも7本打っている。
やはりバッティングでは伊勢原選手と泉選手に適わない。
守備と足を活かすのが、僕の生きる道だと改めて思う。
この日は8回を終えた時点で、8対1でリードしており、結局僕は出番が無かった。
最近は接戦時の代走、守備固めでの出場が多くなっており、勝利のためのピースとして計算されているように感じる。
翌日のスタメンは泉選手だった。
泉選手は守備はそれ程得意ではないので、僕はベンチで接戦になることを願っていた。
すると願いが通じたのか、0対0のスコアレスのままで7回裏を迎えた。
この会の先頭バッターは泉選手。
もし出塁したら、代走及び守備での出場があるかも。
僕はベンチで応援しながら、心の中でそれを祈っていた。
すると泉選手はデッドボールを手に受けた。
泉選手は苦痛に顔をゆがめており、相当痛そうだ。
泉選手が塁に出ることは祈ったが、デッドボールでの出塁は願っていない。
泉選手はトレーナーに付き添われてベンチ裏に下がって行った。
大丈夫だろうか。
少し罪悪感を感じる。
もちろん僕のせいではないが……。
「高橋、出番だ」
栄ヘッドコーチが僕の方を向いて言った。
「はい」
僕は大きく返事し、後ろポケットから新調した青いスライディンググローブを取り出し、一塁ベースに向かった。
クライマックスシリーズ進出に向け、チームに取って、負けられない戦いが続いている。
その中での試合終盤、しかもノーアウトのランナー。
大事にしなければならない。
ましてや泉選手がデッドボールを受けて、獲得したランナーだ。
何とかホームまで帰ってきたい。
僕は一塁ベース上から、ベンチのサインを見た。
サインは「送りバント」。
打者は8番の高台捕手。
あまりバントは得意な選手ではない。
だからランナーとしても、いつも以上に慎重にならないといけない。
初球、高台選手はカットボールをうまく前に転がし、僕は難なく二塁に進むことができた。
次の打者は9番の山形選手だ。
器用なバッターなので、ヒットエンドラン、盗塁、何でもありえる。
僕は二塁ベース上から、ベンチのサインを見た。
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