第121話 ヒーローインタビューⅢ

 ヒーローインタビューの準備が出来たようだ。

 ホーム球場では、お立ち台が用意される。

 残っているファンの数もビジターの時に比べて格段に多い。

 

 球場内にアナウンサーの声が響きわたった。

「今日の投のヒーローは、先発で7回無失点でプロ初勝利を上げた、杉田投手です」

 ワー、パチパチパチ。

 凄い歓声と拍手の音だ。

 やはりホーム球場のヒーローインタビューはビジターとは違う。

 杉田投手は駆け足でベンチを出て、テレビカメラのレンズに向かってサインを書き、お立ち台に上った。

 

「そして打のヒーローは、先制のタイムリーヒットを打った、富岡選手です」

 ワー、パチパチパチ。

 富岡選手も小走りでベンチを出て、テレビカメラにサインしてお立ち台に上った。

 

「今日はもう一人、ヒーローがいます。

 好プレーで杉田投手を助け、8回には追加点となるホームスチールを決めた、高橋隆介選手です」

 ワー、パチパチパチ

 良かった、僕にも大歓声で。

 僕も小走りでテレビカメラにサインし、お立ち台に上った。

 

「まずは投のヒーロー、杉田投手からお話を伺います。

 ナイスピッチングでした」

 今日は男性のアナウンサーだ。

「ありがとうございます。

 野手の皆様にも助けられて、何とか0点に抑えることができました」

「初回のピンチ。

 同級生の高橋選手の素晴らしいプレーが出ましたね」

「はい、あのプレーで気持ちを落ち着かせることができました。

 高橋、ありがとな」

「え?、あ、どうも」

 いきなり話を振られたので、僕は驚いてしまった。

 

「初回、2回とピンチを迎えましたが、その後、尻上がりに調子を上げましたね」

「はい、段々と調子が良くなって、4回の富岡のタイムリーで気持ちが楽になりました」

「プロ5年目での初勝利。おめでとうございます。今のお気持ちはどうですか?」

「はい正直、プロで勝てないんじゃないかと思ったこともありました。

 これまで僕を支えてくれた全ての方に感謝を伝えたいです」

「これからも勝ち星を重ねることを期待しています。

 投のヒーロー、杉田投手でした」

 ワー、パチパチパチ。

 一段と歓声が大きくなった。

 

「次は打のヒーロー。

 先制タイムリーを打った、富岡選手にお話を伺います。

 ナイスバッティングでした」

「はい、ありがとうございます」

「打った瞬間はどう思いましたか」

「あまり当たりは良くなかったので、とにかく落ちてくれと願いました」

「ヒットとなった瞬間、どう思いましたか」

「やったぁ、と思いました

 当たりが良くなかったので、ラッキーでした」

「でもバットを振り切ったからこそ、ヒットになったと思いますが、その点はいかがですか」

「はい。やはり振りきることが大事だと思いました」

「杉田投手への先制点のプレゼント。大きなタイムリーになりましたね」

「はい、杉田と高橋とは同級生なので、三人揃ってヒーローインタビューを受けられて最高です」

「そうですか。

 また素晴らしいバッティングを期待しています。

 打のヒーロー、富岡選手でした」

 ワー、パチパチパチ。

 次は僕の番だ。

 

「そして走のヒーローとでも言うのでしょうか、追加点となるホームスチールを決めた、高橋選手にお話を伺います。

 あの場面、狙っていたのですか?」

「はい、ベンチからのサインを見て、金沢選手が走ったら思い切って行こうと思っていました」

「タイミング的には微妙でしたが、セーフになった瞬間のお気持ちはいかがでしたか」

「はい、これでヒーローインタビューに呼んで貰えるかも、と思いました」

「そうですか。この場に立てて良かったですね。

 今日は守備でも活躍しましたね」

「はい、同級生の杉田投手を何とかサポートしたいと思っていたので、夢中で飛びつきました」

「先制のホームを踏んだのも、高橋選手でした。

 その点はいかがですか」

「はい、僕の仕事は塁に出て、ホームに帰って来ることなので、役割を果たせて嬉しかったです」

「同級生三人で、ヒーローインタビューを受けたお気持ちはいかがですか」

「はい、僕だけ仲間はずれにならなくて良かったです」

「そうですか。

 これからも活躍を期待しています。走のヒーロー、高橋選手でした。

 それでは最後にファンの皆様に一言ずつ、メッセージをお願いします」

 

「これからも勝てるように頑張りますので、応援よろしくお願いします」と杉田投手。

「今度はもっと良い当たりを打てるように頑張るので、応援よろしくお願いします」と富岡選手。

 そして最後に僕にマイクが回ってきた。

 僕は是非、言いたいことがあった。

  

「今日は皆様、球場に来て頂き、ありがとうございます。

 そして素晴らしい応援歌を作って頂いた、応援団の方、本当にありがとうございました。

 蒼き旋風、高橋隆介。

 これからも活躍できるように頑張りますので、応援よろしくお願いします」

 ワー、パチパチパチ。

 一際大きい歓声が球場内に響いた。


 僕は素晴らしい応援歌を作ってくれた応援団の方々に直接御礼を言いたかったのだ。

 最後に同級生三人で並んで、カメラの前で記念撮影した。

 

 今回は無難に答えることが出来たと思う。

 なお三田村情報によると、検索サイトで「高橋隆介、ヒロイン、期待外れ」というワードがトレンド入りしたらしい。

 ファンの皆さんは、僕に何を期待しているのでしょうか。

 いずれにせよ、またヒーローインタビューに呼ばれるように頑張ろう。 

 

 

 

 

 

 

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