第120話 仲間に入りたい
このまま行けば、今日のヒーローインタビューは杉田投手と富岡選手か。
同級生トリオで僕だけ仲間はずれ。
嫌だ。仲間に入りたい。
1回に杉田投手を助けるファインプレーをしたし、先制のホームも踏んだので、仲間に入れてもらえないだろうか。
僕は打席に入りながら考えた。
ヒーローインタビューに呼んで貰うためには、どうしたら良いか。
そうだ。ここで追加点となるホームランを打てば良いのだ。
よし、ここは一発狙うか。
四国アイランズはこの回から十河投手に替わった。
十河投手はかってのドラフト1位であり、150km/hのストレートとチェンジアップ、カットボールで打たせて取るのが持ち味である。
初球。
低目へのストレート。
手がでなかった。
ストライクワン。
2球目。
同じく低目へのチェンジアップ。
これも想像していた軌道と異なり、手が出なかった。
しかしわずかにストライクゾーンを外れていたようで、ボール。
助かった。
3球目。
外角へのカットボール。
うまく右方向に合わせた。
打球はファーストの頭を越えてライト線に飛んでいる。
落ちてくれ。
願いながら、一塁に走った。
ライトが突っ込んできたが、打球はその前に落ちた。
よし、ヒットだ。
これで3打数1安打、1四球だから2番打者としての役割は果たしただろう。
え?、ホームラン?
狙って打てるようなら、もっと良い数字を残せているだろう。
いいんです。僕はこれで。
さてチームとしてはノーアウトのランナーがでた。
ここはもう1点取って、突き放しておきたいところだろう。
3番はトーマス・ローリー選手。
初球、カットボールを打たされてセカンドゴロ。
ダブルプレーコースだが、打球がボテボテなのが幸いし、二塁はセーフ。
これでワンアウト二塁で、岡村選手。
ツーボール、ワンストライクからの4球目をライト前に落とした。
だがライトに取られる可能性もあったので、僕は二、三塁間で打球の行方を見守っていたため、三塁止まりだった。
ワンアウトランナー一、三塁。
絶好の追加点のチャンスだ。
バッターは5番のブランドン選手。
ちなみに一塁ランナーは、俊足の金沢選手に替わった。
ワンボール、ワンストライクからのブランドン選手への3球目。
金沢選手が走った。
四国アイランズの清田捕手は強肩である。
凄い球を二塁に投げた。
そしてそれを見て三塁ランナーの僕はホームに突っ込んだ。
いわゆるディレイドスチールだ。
セカンドの福留選手はランナーにタッチせず、一歩前に出て、送球を掴み取り、ホームに投げてきた。
僕は滑り込んだ。
微妙なタイミングだ。
判定は?
「セーフ」
若干の間が空いた後、球審の右手は横に広がった。
やったぜ。
僕は小さくガッツポーズをしながら、ベンチに戻った。
四国アイランズベンチからリクエストがでたが、判定は変わらずセーフ。
これで3対0
どうだろう。
ヒーローインタビューに呼ばれないかな。
9回の表は、抑えの平塚投手が三人で締めくくった。
快勝だ。
勝利のハイタッチをしながら、ベンチにかえると、一軍の広報担当の梅林さんが杉田投手に声をかけており、杉田投手は肯いている。
そしてその後、富岡選手にも声をかけていた。
僕はその背中をジッと見つめた。
すると僕の念が通じたのか、梅林さんが僕の方に振り向いた。
「高橋選手。何か用ですか?」
「い、いえ、別に」
僕は慌てて視線を逸らした。
「冗談ですよ。高橋選手も今日のヒーローです。
是非、お立ち台に立って下さい。」
「あ、ありがとうございます」
僕は嬉しくなって立ち上がった。
「高橋。今日は変なことを言うなよ」と栄ヘッドコーチが言った。
「はい、大丈夫です。
今日も普通のことしか話しません」
「お前の普通は世間とはズレているんだ」
そうかな、前回もおかしなことは言っていないと思うが……。
考えてみると、ヒーローインタビューを受けるのは3回目だが、ホーム球場で受けるのは初めてだ。
僕は手際よく進められているヒーローインタビューの準備を見ながら、話すことを考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます