第308話 ピンチの後にはチャンスあり。逆もまた然り
ピンチの後にはチャンスあり、逆もまたしかり。
6回裏、1点を追加後、僕が限りなくヒットに近いエラーで出塁したものの、谷口のダブルプレーによりチャンスが潰えた。
こうなると試合の流れは相手側に行くのが、世の常である。
仙台ブルーリーブスは、7回表も続投した青村投手を攻め、ヒットとフォアボールでノーアウト一、二塁のチャンスを掴んだ。
ここで迎えるバッターは、四番サードの深町選手である。
札幌ホワイトベアーズにとっては、この場面で強打者を迎えるというのは大ピンチである一方、チャンスでもある。
というのも、もしここで迎えるバッターが下位打線なら送りバントが濃厚である。
そしてワンアウト二塁、三塁となると、失点の可能性が高くなる。
一方、ここで四番打者にバントはさせないだろうから、うまくゴロを打たせるとダブルプレーを取れる可能性も出てくる。
青村投手もそれが良くわかっており、ここは徹底して低め勝負である。
初球、外角低めへのストレート。
素晴らしい球だ。
判定はストライク。
ボール気味にも見えたが、球審の手が上がった。
2球目。
今度は真ん中低めへのスプリット。
深町選手は手を出さなかった。
この球を打っても、内野ゴロというのがわかっているのだろう。
判定はボール。
ストライクとなってもおかしくないコースだったが、球審の手は上がらなかった。
3球目。
内角膝下へのスプリット。
深町選手は見送ったが、判定はストライク。
これでワンボール、ツーストライク。
追い込んだ。
そして4球目。
外角低めへのストレート。
深町選手は辛うじてバットに当てた。
5球目。
決め球のフォークだ。
しかしあまり落ちなかった。
深町選手がバットで捉えた打球は快音を残して、レフトに飛んでいる。
谷口が懸命に追ったが、打球はその頭の上を越え、フェンスにまで到達した。
二塁ランナーがホームインし、一塁ランナーも三塁を蹴った。
谷口は懸命にバックホームしたが、間に合わない。
これで2対2の同点となつた。
もちろん記録はヒット。
谷口としては精一杯のプレーをした。
だが厳しい事を言うと、もしレフトが俊足の外野手だったら、打球に追いついていただろうし、肩が強ければ一塁ランナーは刺せたかもしれない。
つまり谷口は打ってナンボの選手であり、打てなくなれば試合出場の機会を失う。
引き続き、ノーアウト二塁のピンチとなったが、青村投手が踏ん張り、これ以上の点は与えなかった。
ベンチに戻ってきた谷口はうつむき加減だった。
決してミスをしたわけではなく、谷口なりに精一杯のプレーをした結果だが、彼としても忸怩たる思いがあるのだろう。
7回裏は3番の道岡選手からの打順である。
仙台ブルーリーブスのマウンドには、右腕の塩釜投手。
大卒3年目であり、浮き上がるようなストレートが武器の投手だ。
ちなみに昨年は交流戦で対戦し、僕はホームランを打っている。
塩釜投手のストレートは昨シーズンよりも勢いを増しており、道岡選手以下、札幌ホワイトベアーズのクリーンアップトリオが三者三振にねじ伏せられた。
8回表のマウンドにも青村投手が上がり、緩急をうまく使い、三者凡退に抑えた。
8回裏の攻撃は、6番のロイトン選手からである。
仙台ブルーリーブスのマウンドはセットアッパーの作並投手。
横手投げの左腕であり、ストレート、スライダー、スクリューボールが武器の投手だ。
この回、ロイトン選手がヒットで出塁し、西野選手の送りバントで二塁にランナーを進めたが、後続が凡退し、無得点に終わった。
ということはこのまま行けば、9回裏は僕からの打順だ。
もし同点のままだったら、サヨナラのチャンスだ。
ここは一発狙って、記念すべき10回目のヒーローインタビューを受けようか、なんて事を考えていたが、そうは問屋は卸さない。
9回表に登板した、ルーカス投手が代打で出場した、山寺選手にソロホームランを浴びてしまった。
これで3対2のビハインドとなり、9回裏を迎えた。
そうなると仙台ブルーリーブスは、当然ながら抑えの切り札のグリーン投手をマウンドに送る。
グリーン投手は160km/h近くのストレートと、スプリットが武器の右腕だ。
ここは何としても塁に出ないと。
僕はバットを強く握りしめ、バッターボックスに向かった。
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