第594話 10年目シーズン終了

 記念すべきプロ入り10年目のシーズンが終わった。

 今シーズンは、 137試合に出場し、打率.307(544打数167安打)、ホームラン9本、打点46、盗塁59個(盗塁死17)、盗塁成功率.776。


 うーん、何と素晴らしい数字なんだろう。

 打率.307、リーグ3位。

 繰り返す。

 打率.307、リーグ3位。

 あーなんて、良い響きなんだろう。

 口に出すと、心に染みわたってくる。


 僕はペナントレースの全日程が終わった日のスポーツ新聞を全紙3部ずつ買い求めた。

 一部は保管用。

 もう一部は自宅での観賞用。

 そしてもう一部は持ち運び用である。


 そして盗塁王。

 これもいい響きだ。

 文字面も良い。

 誰か有名な書道家に書いてもらえないだろうか。

 掛け軸にして、自宅の客間(そんな部屋はないけど)に飾りたい。


 今シーズンはチームは4位に終わったので、クライマックスシリーズは無いため、全日程終了と同時に今シーズン終了となった。


 若手選手ならこの後、フェニックスリーグがあるが、僕はもちろん免除だ。

 その後は秋季キャンプがあるが、これも若手主体なので僕は呼ばれないだろう。


 そして今シーズンのオフは、これまで以上に忙しいものになるかもしれない。

 来季の開幕。

 僕はどこで迎えているだろうか。

 今のところ、神のみぞ知るというところか。

 なお、作者も知らないらしい。

 そんな事がありうるのだろうか…。


 とりあえずシーズンが終わったというか、終わってしまったので、自主練習はある。

 とは言っても、長いシーズンを戦い抜いた体を休める必要があるので、あまり負荷がかからない練習が中心である。


「で、結局、お前どうするんだ」

 午前中の練習が終わりロッカールームで休んでいると、谷口がタオルで汗を拭きながらやってきた。

 今シーズンの谷口は、134試合に出場し、打率.271、ホームラン19本、68打点と自己最高の成績を残した。


 今シーズンは道岡選手を始めとして、調子を落とした選手が多かった中、数字を大きく伸ばしたのは僕と谷口くらいだった。

 谷口も静岡オーシャンズ時代は、大きい期待を背負ったが、なかなかレギュラーを掴むことができず、現役ドラフトで札幌ホワイトベアーズに移籍して開花した。


 もっとも本人はフル出場すれば、ホームランを30本以上打てると思っていたそうで、20本にも届かなかった現状には不満らしい。

 さらなるビルドアップを目指して、日々トレーニングに勤しんでいる。


 なお谷口ほどの練習量をこなすと、普通の人間は身体を壊してしまうのでおすすめしない。

 そういう僕も以前は練習量では谷口と競っていたが、最近はコンディションを整えることを最優先としている。


「で、どうするんだ」

 谷口がもう一度聞いてきた。

「そうだな。

 昨日、食べすぎたから今日は蕎麦にしておこうかな」

「誰がお前に昼飯のメニュー聞いたんだよ。

 俺は来季、どうするんだと聞いているんだ」

 

「ああ、来季な。俺もわからん。

 とりあえず作者に聞いてくれ」

「そんなことばかり言っているから、メタフィクション的な発言が多すぎる、とコメント欄に書かれるんだぞ」

「お前のその発言も問題だと思うがな。

 でお前はどうするんだ?」

 

「俺?、まだフリーエージェントの資格も無いし、トレードに出されない限りはこのチームで頑張るさ」

「そうじゃなくて、昼飯だよ。

 蕎麦食いにいかないか」

「蕎麦か。

 まあ、さっぱりしてたまには良いか」


 谷口は食生活もストイックである。

 常日頃から、栄養バランスや筋肉をつけることを考えて食事している。

 正直、真似できないし、したくもない。


 ちなみに同学年の五香選手と光村選手は志願して、フェニックスリーグに参加している。

 2人とも今一歩伸び悩んでおり、少しでも試合にでて、殻をやぶりたいそうだ。


 ということで、球場を出て、僕のぽるしぇ号に谷口を乗せて蕎麦屋に向かった。

 駐車場に停めた時、まるでそれを見越していたかのように携帯電話がなった。

 誰だ、こんな昼時に。


「はい、高橋っす」

「よお、北野です」

 北野?

 誰だっけ?

 誰かわからないが親しげに話しかけてきている。

 

「どちらの北野さんですか」

「ああ、これは申し遅れてすみません。

 札幌ホワイトベアーズ球団本部長の北野です」

 ゲッ、球団本部長からの電話に失礼な事を言ってしまった。

 でも仕方が無いと思う。

 登場人物が多すぎて覚えられない。

 

「た、大変、失礼しました。

 な、何の用でしょうか」

 (また失礼な物言いしていますね。作者より)

「昼時にすみませんね。

 簡単に用件だけ、お話します。

 明日の15:00に球団事務所に来ていただけないでしょうか?」

「あ、明日の15:00ですか。

 だ、大丈夫です」

「ありがとうございます。

 それでは明日お待ちしています」


 「おっ、戦力外通告か?」

 谷口が嬉しそうに言った。

 6〜7年前ならともかく、今の僕を戦力外にする球団はどこを探してもないだろう。

 万が一、そんな事があれば引く手あまただろう。

 自分で言うのもなんだけど。


 明日か。

 どんな話をされるのだろう。

 僕はそんな事を考えながら、車のキーを抜いた。

  

 

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