第172話 がっぷり四つ

 タイムリーツーベースの山形選手を二塁に置いて、バッターは3番の水谷選手。

 しかもノーアウトである。

 そして次は4番の岡村選手、5番のデュラン選手と続く。

 泉州ブラックスに取って、逆転の大チャンスだ。


 大須投手はかなり疲れているはずである。

 しかし、ここは踏ん張った。

 水谷選手をフルカウントからチェンジアップでショートゴロ、岡村選手はツーストライクからカーブで見逃しの三振、デュラン選手は良い当たりのレフトライナー。

 これ以上の失点を許さないのは、さすがベテランだ。


 そして僕は6回裏からセカンドの守備位置につき、この回も杉田投手はヒットを打たれながらも何とか0点に抑えた。

 6回2失点、良く粘ったと言えるだろう。

 

 中京パールスは予想通り、7回表から継投に入った。

 三段ロケットと呼ばれるリーグ屈指の盤石の救援陣。

 7回は亀山投手、8回は伊勢投手、そして9回は都沢投手の3人である。


 亀山投手はプロ2年目の24歳の左腕。

 ドラフト9位入団ながら、昨シーズン中盤から一軍に定着し、今シーズンは開幕から勝ちパターンの試合の7回を任せられている。

 ストレート、カットボール、スプリットが主体のピッチングである。


 そして泉州ブラックスは、6番の宮前選手からの攻撃であったが、三者凡退に終わった。

 次の回は僕からの打順だ。


 7回裏、我らの泉州ブラックスのマウンドには、中継ぎエース格の倉田投手が上がった。

 倉田投手は150km/h超えのストレートとフォークが主体のピッチャーである。

 倉田投手のフォークはわかっていても打てないと形容されている。

 倉田投手は期待に答え、三者凡退に抑えた。

 

 そして8回表、中京パールスのマウンドには伊勢投手がマウンドに上がった。

 伊勢投手は37歳のベテランであり、10年連続で20ホールドを挙げている。

 大卒、社会人経由で入団したため、プロ入りは25歳と遅かったが、そこから実績を積み上げてきた左腕だ。

 140km/h台のストレートと、110km/h台のチェンジアップ、90km/h台のカーブを操る。

 打てそうで打てない投手の代表格である。


 この回、僕は先頭バッターとして気合を入れてバッターボックスに立ったが、ストレートの後のチェンジアップをひっかけて、サードゴロを打ってしまった。

 まさに術中にはまったと言えるだろう。

 そしてこの回の攻撃は三者凡退に終わった。


 だが泉州ブラックスも負けてはいない。

 8回裏のマウンドにはセットアッパーの山北投手があがった。

 山北投手の代名詞はツーシームである。

 球速は130〜140km/h台だが、打者の手前で微妙に変化し、また球速以上に球威もあるため、なかなか捉えることができない。

 そして山北投手は意地を見せ、見事、三者凡退に抑えた。


 こうなると白黒対決の勝負は9回の攻防に委ねられる。

 中京パールスの抑えは、都沢投手。

 都沢投手は球界を代表する抑えであり、昨シーズンは35セーブで、最多セーブのタイトルを獲得した。

 右腕から150km/hを軽く超えるストレートと140km/h台のフォークとスライダーを投げる。

 時々投げるシンカーも厄介である。

 そして泉州ブラックス打線は3番の水谷選手からの打順であり、クリーンアップトリオの3人が打席に立ったが三者三振に切って取られた。


 9回裏、もし点を取られたらサヨナラ負けの重圧がかかる場面、泉州ブラックスのマウンドに上がったのは、平塚投手。

 平塚投手の代名詞はとにかくストレートだ。

 打席に立ったバッターはボールが浮き上がるように見えるという。

 球速は150km/h台がコンスタントにでる。

 そしてチェンジアップと時々、人を食ったような80km/h台のカーブを投げる。

 打者はこの球速差に惑わされるのだ。

 そして平塚投手は見事三者凡退に抑えた。


 まさにがっぷり四つ。

 どちらも7回以降、一人のランナーも出せないまま、延長戦に突入した。

 10回表、一人ランナーが出れば僕に打席が回るのだが……。

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

  

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