第291話 スピードスター(自称)の面目躍如

 3回裏は、2番の俊足、西野選手からの攻撃だ。

 岡山ハイパーズの藤寺投手は初回、いきなり4点を失ったとは言え、開幕戦を任されるほどの投手である。

 2番から始まる札幌ホワイトベアーズの上位打線を三者三振に切って取った。

 うーん、さすがだ。


 4回表。

 レフトへの大飛球を打たれたが、谷口が真っ直ぐ打球の落下点に到達し、ランニングキャッチした。

 谷口は守備も下手ではない。

 打撃さえ、安定すれば充分にレギュラーを担う実力はある。


 そしてショートへの強いゴロも飛んできたが、難なく捌いた。

 この回も無失点で抑え、軽やかな足取りでベンチに戻った。

 

 満員の球場でプレー出来ることの幸せを感じる。

 札幌ホワイトベアーズのチームカラーは銀であり、観客席も白や銀が目立つ。

 泉州ブラックスとの交流戦は、観客席が白と黒のコントラストを描くのだろうな、と思った。

 もっとも今年はアウェーの番だが。


 4回裏、この回は再び谷口に打順が回る。

 さっきの満塁ホームランで気を良くしてるだろうから、この打席も期待ができる。


 5番の下山選手がヒットで出て、谷口の打席を迎えた。

 ノーアウト一塁。

 ここは少なくとも塁を進めるバッティング、つまり右打ちをしたいところだ。


 しかし谷口はその意識が強すぎたのか、初球、当てるだけの力のないセカンドゴロを打ってしまい、あえなくダブルプレー。

 この辺が谷口の課題だろう。


 5回表、青村投手はこの試合初めてヒットを許すなど、ワンアウト満塁のピンチを迎えた。

 守備はダブルプレーシフト。

 4点差あるので、1点は仕方がないという守備体形だ。


 岡山ハイパーズのバッターは、8番の吉成捕手。

 バッティングはあまり得意でないバッターだ。

 ショートゴロに打ち取り、見事に6-4-3のダブルプレーを完成させた。

 我ながら安定した守備だ。


 5回裏、ツーアウトランナー無しで僕に打順が回ってきた。

 ここは点差もあるし、一発狙っても良い場面では無いだろうか。

 好球必打。

 狙い球を絞ることにした。


 初球。

 外角低めへのスライダー。

 ストライクゾーンからボールにゾーンに逃げていく球だ。

 この球を打っても内野ゴロだろう。見送って、ボール。


 2球目。

 内角高めへのストレート。

 これも打てそうにない。

 見送った。

 ボール。


 3球目。

 真ん中低めへのツーシーム。

 これは決まってストライク。

 ツーボール、ワンストライク。

 バッティングカウントだ。


 4球目。

 外角低めへのストレート。

 素晴らしい球だ。手が出なかった。

 だが判定はボール。

 図らずもスリーボール、ワンストライクとなった。

 ここまではホームランを打てそうなボールが来ていない。


 5球目。

 真ん中低めへのスプリット。

 これも手が出なかった。

 さすがだ。

 しかし球審の手は上がらない。

 4球目、5球目はストライクと判定されても文句を言えない球だった。儲けた。

 僕は軽やかな足取りで、一塁に向かった。


 一塁ベース上から、ベンチを見た。

 サインは、グリーンライト。

 隙があれば、盗塁しても良いというサインだ。


 藤寺投手は牽制球が上手だし、受ける吉成捕手は肩が強い。

 盗塁を決めるには、厳しい条件が揃っているが、こういう場面で決めてこそ、スピードスター(自称)の面目躍如だ。

 

 バッターは2番の西野選手。

 盗塁する場合、サポートを見込める。

 藤寺投手がセットポジションに入り、僕はリードした。

 すると牽制球が連続で3球来た。

 あたり前だがかなり警戒されている。

 初球。

 外角へ外れた。

 ボール。

 僕はスタートを切らなかった。

 

2球目を投げる前に、またしても牽制球が立て続けに2球来た。

 投球はこれも高めに外れてボール。


 牽制球が2球来た後の3球目。

 僕はスタートを切った。

 良いスタートを切れた。

 二塁ベース目掛けて懸命に走る。

 吉成捕手からの送球が来た。

 素晴らしい送球だ。

 タイミングは微妙か。

 僕は足から滑り込んだ。

 判定は?

「セーフ」

 やった、今季初盗塁だ。

 岡山ハイパーズベンチはリクエストはしなかった。


 この間の投球はストライク。

 西野選手は僕の盗塁を助けるために、わざと空振りをしてくれたのだ。


 そしてツーボール、ワンストライクからの4球目。

 西野選手はしぶとく三遊間に打ち返した。

 レフトは少し前進守備をしていたが、僕は三塁を蹴ってホームに突っ込んだ。


 レフトからの送球が帰ってきて、吉成捕手はタッチに来た。

 だが僕はそれをうまくかわし、ホームに滑り込んだ。

 判定はもちろんセーフ。

 これで5対0。

 僕の盗塁が生きた。  

 

 

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る