第292話 新人投手対蒼き旋風

 この回、西野選手も盗塁を決め、道岡選手のタイムリーヒットでホームに帰ってきた。

 これで6対0。

 好投手の藤寺投手相手に、こんな展開になるとは予想していなかった。


 6回表、青村投手はソロホームランを打たれたが、6回1失点は上出来だろう。

 その裏は藤寺投手に変わり、新人左腕の蒔田投手がマウンドに上がった。

 昨秋のドラフトで、岡山ハイパーズから2位指名を受けた、大卒社会人出身の期待の即戦力ルーキーである。


 札幌ホワイトベアーズのこの回の攻撃は5番の下山選手からであり、谷口にも打順が回る。

 下山選手はフルカウントまで粘り、さらにそこから5球連続でファールを打ち、12球目でフォアボールを選んだ。


 バッターは谷口。

 さっきの打席もノーアウト一塁で回ってきたが、中途半端なバッティングで、ダブルプレーに倒れていた。

 ここはどうするのか。

 ベンチのサインを見たら、何と送りバント。

 谷口は無表情で、サインを見ている。


 初球。

 ヒッティングの構えから、ファースト方向に見事に送りバントを決めた。

 谷口は実はバントは上手い。

 良くバント練習もしている。

 このような小技を使えることをアピール出来たら、例えば2番打者としても出場できるかもしれない。


 ワンアウト二塁となった後、7番の北田選手がフォアボールを選んだが、後続が凡退し、この回は無得点に終わった。

 次の回は僕からの打順である。


 7回表、青村投手はもう1本ソロホームランを打たれたものの、この回を投げきった。

 7回2失点。

 充分に開幕投手という大役を果たしたと言えるだろう。


 7回裏の攻撃は僕からの打順である。

 6対2とリードしているが、追加点を挙げて、試合を決めたいところだ。

 相手投手は引き続き、蒔田投手。

 ここまでの3打席、ヒット、三振、フォアボール。

 もう1本打ちたいところだ。

 しかも相手は得意な左投手だし。


 初球。

 内角低めへのストレート。

 うーん、速い。

 見逃したが、ストライク。


 2球目。

 外角へのツーシーム。

 遠いと思ったが、ストライク。

 2球で追い込まれてしまった。

 僕は一度、バッターボックスを外した。

 スコアラー情報ではフォークも使うそうだ。

 ランナーもいないし、ここは三振を取りに来るか。

 フォークを頭に入れつつ、ストレート、ツーシームもケアしなければならない。


 3球目。

 予想通りフォークだ。

 だが低いので、さすがにこれは手は出ない。

 これでワンボール、ツーストライク。


 4球目。

 ストレートか。

 いや球が遅い。

 チェンジアップだ。

 辛うじてバットに当てた。


 5球目。

 外角低めへのストレート。

 見逃した、というよりも手が出なかった。

 咄嗟に球審の顔を見たが、手は上がらなかった。

 助かった…。

 これでツーボール、ツーストライク。


 6球目。

 ストレートか。いや、フォークだ。

 真ん中付近から、尖く落ちてきた。

 これも辛うじて、バットに当てた。

 うーん、いい投手だ。


 7球目。

 外角低めへのツーシーム。

 ボールかストライクか怪しかったので、何とかバットに当てた。

 カウントは変わらず、ツーボール、ツーストライク。


 そして8球目。

 ストレートの腕の振りからのチェンジアップ。

 この球を待っていた。

 僕は思い切り、振り抜いた。

 打球はレフト線に向かっている。

 落ちた。

 フェアかファールか。


 判定はフェア。

 僕は一塁を蹴って、二塁に向かった。

 ツーベースヒットだ。

 これで3打数2安打。

 良いスタートを切れた。


 蒔田投手はマウンドで悔しそうな顔をしている。

 良い球を持っているので、きっと経験を積めば、良い投手になるだろう。


 さて2番の西野選手は、早くも送りバントの姿勢をしている。

 もう1点取って、試合を決めたいところだ。


 そして初球。

 僕はいきなりスタートを切った。

 西野選手はバントの構えから、わざと空振りをした。

 この辺はさすがだ。


 吉成捕手は虚をつかれたか、ボールを握り直し、投げてきたが、悠々セーフ。

 牽制球が無かったところを見ると、蒔田投手も三盗は頭に無かったかもしれない。


 そして西野選手は、ワンボール、ツーストライクからの4球目をセカンドゴロを打った。

 僕はホームに突っ込んだ。

 岡山ハイパーズの内野陣はバックホーム体勢を敷いていたが、投げてこなかった。

 これで7対2。

 俄然、有利になった。


 

 

 

 

 

 


 

 

 

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