第293話 結果的には大接戦
この回は後続が倒れ、1点止まりだったが、貴重な追加点を取れた。
あと2回を抑えれば、開幕戦勝利だ。
ここで8回表のマウンドには、左腕の鬼頭投手が上がった。
29歳の中堅どころの投手だ。
昨シーズンも全て中継うぎで、31試合に登板した。
ところがピッチャーが変わった事で、青村投手に苦戦していた岡山ハイパーズ打線が息を吹き返したのか、連続ヒットでノーアウト一、三塁のピンチを迎えた。
次のバッターは新外国人のベイス選手である。
僕ら内野陣はマウンドに集まった。
「ホームランを打たれても、まだ2点ある。
思い切って、腕を振れ」と道岡選手。
鬼頭投手は頷いた。
そして本当にベイス選手にスリーランホームランを打たれた。
これで7対5。
試合は俄然、分からなくなった。
大平監督が出てきて、ピッチャーの交代を告げた。
鬼頭投手はワンアウトも取れずに降板し、マウンドには新外国人のルーカス投手が上がった。
大リーグでも94登板の経験があり、セットアッパーとして、期待されている。
190cmを超える長身から投げ下ろすストレートと、カットボールが持ち味とのことである。
そしてルーカス投手は期待に応え、後続を抑えた。
全て内野ゴロによるアウトであり、打たせてとるスタイルのようだ。
8回裏、この回の先頭バッターは谷口だったが三振に倒れた。
そして後続も凡退し、この回は無得点で、いよいよ9回の攻防を迎えた。
札幌ホワイトベアーズの抑えは新藤投手。
150km/hを超えるストレートとフォーク、スライダーのコンビネーションが強力な投手だ。
ツーアウトまでは簡単に取ったが、あと一人という場面でソロホームランを打たれてしまった。
そして次のバッターにはフォアボール。
その次のバッターにはデッドボールを与え、ツーアウトながら一、二塁のピンチを背負ってしまった。
そして迎えるバッターは4番の倉田選手。
次のバッターは先程スリーランホームランを打った、ベイス選手であり、歩かせるわけにもいかない。
点差は7対6と1点差。
うーん、苦しい場面だ。
僕はショートの守備位置で中腰になった。
緊張する場面だ。
そしてスリーボール、ワンストライクからの5球目。
真ん中高めへのストレートを捉えた打球が、ショートに飛んできた。
僕は必死にジャンプしたが届かない。
これで同点か。
そう思って振り向くと、レフトの谷口が前に飛びついてきた。
一瞬の沈黙。そして大歓声が球場を包んだ。
谷口は見事に打球を捕球していた。
もし後ろに逸したら、2点を失う場面である。
イチかバチかのギリギリのプレーだ。
これで試合終了。
谷口はボールを掴んだグラブを上に掲げ、ガッツポーズしながら戻ってきた。
何だ、結局今日は谷口デーだったな。
僕はショートの守備位置で谷口を出迎え、ハイタッチした。
満塁ホームランに、守ってはファインプレー。
昨シーズンの悔しい思いを、少しは晴らせただろうか。
だがまだ一試合。
シーズンは始まったばかりである。
開幕三連戦は、札幌ホワイトベアーズは2勝1敗で勝ち越した。
僕は12打数4安打で打率.333、盗塁2。
まずまず良いスタートを切れたと思う。
谷口は12打数4安打、ホームラン1本、打点5。
2試合目にタイムリーヒットも放ち、試合には敗れたものの、存在感を見せた。
次はアウェーでの京阪ジャガーズとの三連戦だ。
まだ結衣と翔斗は大阪に住んでいるので、自宅から通える。
シーリーグは、札幌、仙台、川崎、京都、岡山、熊本と本拠地が全国に点在しているので、スカイリーグ以上に移動距離が長い。
(スカイリーグは、東京、静岡、新潟、愛知、大阪、香川だった)
シーズン中は自宅に寄る機会が少ないので、貴重な時間である。
「だから何でお前がいるんだよ。仕事はどうした?」
「ちょっと寄っただけでしょ。職場から近いから、翔斗ちゃんの顔を見に来たの」
家に帰ると、妹が遊びに来ていた。
妹は大学を卒業し、あるお菓子メーカーに総合職として入社した。
さすがにパンケーキの評論家になる夢(?)は、諦めたみたいだが、趣味と実益を兼ねた会社を見つけてきたところはさすがである。
翔斗は生後4ヶ月となり、首も据わり、感情表現も豊かになってきた。
プロ野球選手という特性上、あまり一緒にいる時間がなく、見る度に大きくなっているのが、嬉しくも寂しくもある。
もっとも後2ヶ月ほど経てば、札幌に引っ越してくる予定である。
そろそろ新居を探さないと。
どの地域に住んだら良いか、札幌在住の知人に聞いてみようと思っている。
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