第139話 良い意味での開き直り

 8回、9回は綾瀬投手が登板し、結局この試合は11対0のまま、終了した。

 そして翌日の試合は、僕の出番は無かった。


 ここまでチームは9試合で7勝2敗とスタートダッシュに成功していた。

 そして僕は2試合に出場して、1打数1安打、盗塁1、エラー無し。

 決して悪いスタートではないが……。


 1日おいて、久しぶりにホームに戻っての中京パールス戦だ。

 自宅に帰ったが、結衣はちょうど夜勤で会えなかった。

 だが冷蔵庫には手料理が入っており、電子レンジで温めて食べた。

 テーブルの上にはちょっとした置き手紙があった。

 可愛らしい便箋に、綺麗な字。元気をもらった。

 そうだ。僕はもう1人じゃないんだ。そう思った。

 

 翌日も僕はベンチだった。

 チームは5対3で敗れ、僕の出番は無かった。

 今の僕は大差がついているか、僅差で勝っている時に出場のチャンスがあり、僅差で負けている試合は出場の可能性が低い。

 なぜならば、僅差で勝っていれば、代走、守備固めのチャンスがある。

 しかし僅差で負けていれば、点を取らなければならないので、打撃力がある選手が優先となるのだ。


 その翌日も僕は控えであり、試合は、3対3の同点で8回の裏を迎えた。

 そしてトーマス・ローリー選手がワンアウトからフォアボールで出塁した。

 

「高橋、出番だ」

 栄ヘッドコーチの声で、僕は青いスライディンググローブをはめて、ベンチを飛び出し、一塁ベースに向かった。

 期待されている役割を1つ1つ果たすこと。

 それが今の僕が出場機会を増やすために必要なのだ。


 バッターが4番の岡村選手ということで、ベンチのサインは「打て」だった。

 岡村選手は初球のカットボールに手を出し、セカンドゴロ。

 ショート、ファーストと送球されて、いわゆる4-6-3のダブルプレー。

 僕は何もできないまま、ベンチに戻った。


 そしてグローブを掴み、セカンドの守備位置についた。

 試合は抑えの平塚選手が、9回の表に2本のソロホームランを打たれ、そのまま敗戦。

 これでチームは7勝4敗となり、中京パールスと同率首位となった。


 翌日は同一カード3連敗を避けたいということで、エースの児島投手を先発マウンドに送った。

 僕は今日もベンチであり、今季ここまでスタメン出場はない。


 この試合も泉州ブラックスは2対1で敗れ、同一カード3連敗を喫してしまった。

 最後まで僕は出場機会が無かった。

 最近、これなら2軍に落ちた方が良いとすら思う。

 野球選手として、試合に出られないのは辛い。

 もちろんプロである以上、与えられた場所で役割を果たすしか無いのだが……。


 1日空いて、次はアウェーでの静岡オーシャンズとの3連戦だ。

 旧知の選手が多くいる、馴染みの球場であるが、僕には出場機会が与えられなかった。

 チームは1勝2敗で、シーズン通算で8勝7敗となり、3位に落ちてしまった。

 

 ちなみに谷口は開幕から4番に座り、ここまで3ホームランを打っている。

 泉州ブラックス戦も3試合目に4号ホームランを放った。

 打率は高くないが、いよいよブレイクかと言われている。

 試合前に谷口とは少し話をしたが、結果が出ているからか表情は明るかった。

 僕はどんな顔をしているだろうか……。

 フラストレーションがたまっている……。


 そんな時、額賀選手がケガから復帰し、2軍に合流した。

 僕と額賀選手は俊足堅守が売りであり、タイプが似ている。

 額賀選手の方が長打力はあり、過去には二桁の11本ホームランを打ったこともある。

 年齢は33歳で、僕よりも10歳近く年上であり、過去には数年間、ショートのレギュラーを張っていた。

 ここ2年くらいは相次ぐ故障で、思うような成績を残せなかったが、どうやらそれが癒えたらしい。

 

 もし、額賀選手が1軍に昇格したら、2軍に落ちるのは…、やはり僕だろう。


 次はホームでの四国アイランズ戦。

 その前日練習で、僕は初戦のショートでのスタメンを告げられた。

 これは1軍生き残りをかけた、最終テストかもしれない。

 悔いのないようにやろう。

 それでダメなら、2軍でもう一度やり直そう。

 僕は良い意味で開き直った。

 これが吉と出るか凶とでるか。


 今日は久しぶりに自宅で結衣が待っている。

 明日の試合に向け、結衣の手料理を食べて、パワーチャージしたい。

 

 

 

 


 

 


 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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