第285話 先発は五香投手

 オープン戦初戦は、僕は3打席で2打数1安打、1四球で、6回裏の守備から退いた。

 若手にチャンスを与えるためだ。

 

 そう、僕もプロ8年目で今年で26歳になる。

 もはや若手という範疇に入らない。少なくともそう自覚している。

 そして今シーズンの目標はレギュラー獲得ではない。

 規定打席到達が最低目標である。

 そのためにはフル出場も目指したいと思う。


 プロに入って、曲がりなりにも毎年成績を伸ばしてこれた要因の一つとして、ケガが少ないということがあるだろう。


 これまでの1番大きなケガはプロ4年目、つまり泉州ブラックスの初年度の開幕前、デッドボールを受けて骨折したことだ。

 それ以降、打席に入る時は面倒でも必ず足や肘にプロテクターをつけることにした。 

 また、塁に出た時も手の骨折防止のため、ミトンみたいな防具を付けている。

 

 そして内角の危ない球を避ける技術も向上したと思う。

 昨シーズンも危ない球は、何回かあったが、全てうまく避け、デッドボールはシーズン通じて0だった。


 僕のような立場の選手は、ケガをするとすぐに他の選手にポジションを奪われてしまう。

 だからケガをしないというのが、目標達成への最低条件なのだ。


 その後、オープン戦中盤までは出たり出なかったりだった。

 これは決して悪いことではない。

 チームとして、層を厚くするためには、控え選手も育てなければならないし、僕自身も開幕にピークを合わせるため、調整方法もある程度、任されている。


 その点、谷口はほとんど全ての試合にフル出場し、12試合で5ホームランとアピールしている。

 もともと練習熱心ではあったが、今シーズンの谷口は静かに闘志を燃やしているように見える。

 

 性格的にあまり感情を露わにするタイプではないので、誤解を招きやすいが、闘志を内に秘めるタイプである。

 静岡オーシャンズ時代、特に最後の方はその点を誤解されていたようだ。


 谷口は凡退しても、あまり悔しそうな表情を浮かべずに淡々とベンチに戻ってくる。

 それが首脳陣やファンの一部から、覇気が無いとか、闘志が見えないとか思われたのかもしれない。


 以前の君津監督はそんな谷口の性格をよく理解して、我慢強く起用したが、結果的にその期待に谷口は応える事ができなかった。

 そしてそれが君津監督の解任の一因となってしまったことに、谷口としては忸怩たる思いを抱えているのだろう。

 だから札幌ホワイトベアーズで活躍することで、その恩に報いたいと考えているはずだ。


 オープン戦も中盤を過ぎると、お試し期間を終え、スタメンもシーズンを意識したものになる。

 よって僕は1番ショートでフル出場することが多くなってきた。

 谷口も最初は7番だった打順が、6番となり、最近は5番を任されている。

 そして今日の試合も、谷口はツーベースヒットを打った。

 このまま2人揃って開幕スタメンを勝ち取れれば良いが。


 そして翌日、東京チャリオッツ戦の先発は五香投手だった。

 アメリカでは中継ぎとしての登板がメインだったが、日本では先発に挑戦するのか。

 スタメンは次のとおり。


 1 高橋(ショート)

 2 西野(ライト)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(指名打者)

 5 谷口(レフト)

 6 野中(センター)

 7 北田(セカンド)

 8 武田(キャッチャー)

 9 木村(ファースト)

 ピッチャー 五香


 今日は札幌ホワイトベアーズのホームゲーム扱いであるが、オープン戦なので指名打者がある。

 今日のスタメンでは、9番に昨秋のドラフト1位の木村選手が入った。

 大卒の期待の大砲候補である。


 僕は五香投手の投球を生で見るのは、高校三年生で対戦した時以来である。

 あの時も力のある速球に加え、キレの良いスライダー、チェンジアップ、ツーシームを投げていたが、どこまで進化したか。

 僕はショートの守備位置から、マウンドに登って投球練習をする、五香投手の背中を見つめていた。

 



 


 


 

 

 

 

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