第143話 目指せ、出塁
6回の表は杉田投手に替わって、秦野投手がマウンドに上がった。
ほぼ毎回ランナーは出したが、5回1失点は及第点だろう。
そしてこの回は秦野投手が0点に抑え、その裏には僕の第2打席が巡ってくる。
6回の裏、僕はバットを持ち、バッターボックスに向かった。
ベンチの方は敢えて見なかった。
接戦で、代打を出される可能性があるが、僕は自分が出塁することだけに集中しようと思った。
何としても塁に出てやる。
僕はバットを少し短く持ち、構えた。
代打は無いようだ。
この回も四国アイランズのマウンドには、ブラウン投手が上がった。
ここまで3安打1失点と好投しているので、続投となったのだろう。
初球、僕は打つ体勢からサッとバントの構えをしたが、すぐに引いた。
投球は真ん中低目へのツーシーム。
判定はボール。
元々バントをするつもりは無かったが、相手はセーフティバントを警戒しているだろう。
そして、予想通りサードが前にダッシュしてきた。
相手の内野守備陣は前進守備を敷いており、外野も前寄りに守っている。
2球目。
内角低目へのツーシーム。
低いと思って見送ったが、ストライク。
ワンボールワンストライク。
僕は表情を変えないように努めた。
3球目。
外角低目へのツーシーム。
これも入ってストライク。
引っかけさせて内野ゴロを打たせたいのだろう。
いくら僕が足に自信があってもこう前進守備を敷かれては、セーフになるのは難しい。
これでワンボールツーストライク。追い込まれた。
4球目。
内角へのストレート。
とても速く見える。
辛うじてバットに当てた。
カウントは、変わらずワンボールツーストライク。
僕は一度バッターボックスを外した。
1つ前の内角の球が布石なら、次は外角へ来るか。
というのも内角の次に外角へ来るとバッター心理としては遠く見える。
そして僕はさっきの打席で内角低目の球をヒットにしている。
よし次は外角に来る。
そう読んだ。
しかし僕は天の邪鬼なのだ。
寄せば良いのに内角にヤマを張ることにした。
5球目。
読み通り内角に来た。
だが高目である。
腕を畳んでコンパクトに振り抜いた。
真芯に当たった。
打球の行方を横目で見つつ、僕は一塁に全力で走り出した。
前寄りに守っていたレフトが懸命にバックしている。
そして手を伸ばした。
捕るなよ。
僕は祈った。
そして、打球はレフトの頭上を超えた。
やったぜ。
一塁を回って、二塁に向かった。
南サードコーチャーを見ると、手を回している。
僕は二塁を蹴って、三塁に向かった。
南コーチが滑り込め、とジェスチャーをしている。
足からスライディングをした。
送球がサードに送られてきたが、タッチはされなかった。
三塁打だ。
どんなもんだい。
僕は大歓声に応え、右手を軽く上げた。
これで今日は2打数2安打。
シーズン通算でも5打数3安打。
大きい当たりも打てることを証明できれば、簡単に前進守備はされない。
そういう意味でも大きなバッティングだったと言える。
これでノーアウト三塁。
そして次の伊勢原選手がきっちりと犠牲フライを打ってくれた。
僕は悠々とホームに帰り、これで2対1と勝ち越した。
ベンチに返ると、チームメイトがハイタッチで迎えてくれた。
この回は更に3番の岸選手にホームランが飛び出し、3対1とリードを広げた。
7回表は左腕の松田投手がきっちりと三者凡退に抑え、その裏の攻撃は無得点に終わり、8回の裏にはもう一度打席が回ってくる。
8回の表の守備はセットアッパーの山北投手が三者凡退に抑えた。
ちなみに僕はセカンドゴロを1つ捌いた。
そして8回の裏、残念ながら、四国アイランズのベテラン、宮越投手の前にフルカウントから三振を喫してしまった。
9回表は抑えの平塚選手が三者凡退に抑え、見事に泉州ブラックスは勝利した。
ヒーローインタビューは勝ち越しの犠牲フライを打った伊勢原選手、追加点となるホームランを打った岸選手、そしてプロ初勝利を上げた秦野投手だった。
そうか、僕は秦野投手の初勝利に貢献したのか、これは御礼に奢って貰わなければ、と思った。
そしてその後、杉田投手と秦野投手と僕の三人で秦野投手のお祝いをした。
そして……。
僕と杉田投手で支払いをした。
なぜならば……。
僕の方が年上で、年俸も高いからだ。
そうか。
僕も人にご馳走できる立場となったか。
そう考えると、ちょっと嬉しく思った。
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