第411話 緊迫の9回の攻防?
谷口がバッターボックスに入った。
造田投手はもちろん僕の盗塁を警戒している。
1点リードとは言え、試合も終盤8回表。
札幌ホワイトベアーズにとって、貴重なノーアウトのランナー。
チャンスで道岡選手に繋ぎたいところだ。
谷口は送りバントもできるし、進塁打も打てる。
僕の単独スチールもありうるし、ヒットエンドランも面白いかもしれない。
さあベンチはどうするかな?
ちょっとワクワクしながらサインを見た。
フムフム、えーと、あのサインは。
グリーンライト。
でもアウトになったら◯す。
物騒なサインだ。
ヤレヤレ。
谷口はバントの構えをしている。
揺さぶりをかける腹だろう。
牽制球を2球挟んでの初球。
真ん中高目へのストレート。
造田投手としては、フライを上げさせようという意図のボールだろう。
谷口はバントを引いた。
ボールワン。
僕はスタートを切る振りだけした。
そしてまたもや牽制球を2球挟んでの2球目。
サインはグリーンライトのまま。
谷口はまたバントの構えをしている。
内角低目へのシンカー。
これもバントには難しい球だ。
これもバントを引いた。
これも際どいがボール。
カウントはツーボールとなった。
造田投手は首を傾げている。
これはストライクと思ったのだろう。
造田投手はセットポジションに入り、じっくりと僕の方を見ている。
そして牽制球を3球立て続けに投げてきた。
長い間合いからの3球目。
僕はスタートを切った。
そして谷口はバットを出した。
ヒットエンドランだ。
右方向にゴロが転がっている。
セカンドの浅井選手が懸命に追いかけたが、打球はそのグラブの僅か先を抜けた。
僕はそれを見て、二塁ベースを蹴り、三塁に向かった。
谷口は悠々と一塁に到達。
ヒットエンドラン成功だ。
投球は外角低めへのフォークボールだったが、谷口は良くその球についていった。
球筋に逆らわず、うまく右打ち。
昔の谷口にはできなかったバッティングだ。
これまでの努力がようやく実を結びつつある。
努力する選手が成功するとは限らないが、成功する選手はすべからく努力をしている。
僕の好きな言葉だ。
さてこれでノーアウト一、三塁で、バッターはチーム随一の勝負強さを誇る道岡選手だ。
しかも右腕対左打者。
札幌ホワイトベアーズにとって、願ってもない得点の大チャンス。
しかし造田投手がなぜ常勝チームのセットアッパーとして君臨しているのか。
僕はその理由を目の当たりにした。
造田投手はもう一段、ギアを上げ、巧打者の道岡選手を三球三振に切って取った。
シンカー、シンカーで追い込み、最後は落差の大きいフォーク。
バットコントロールに優れた道岡選手には珍しい、三球連続の空振りだ。
道岡選手は悔しそうにベンチに戻っていった。
次は4番のダンカン選手だったが、初球、外角のシンカーに手を出してサードゴロ。
ショート、ファーストと送球されて、5-6-3のダブルプレー。
造田投手は長髪を振り乱してマウンド上で吠えている。
くそー、今日こそはあの鬱陶しい長髪を引きちぎってやろうと思っていたのに…。
そして8回裏はベテランの大東投手。
今日も勝ちパターンでクルデス…。
大東投手もランナーを一人出したものの、試合は1点差のまま、大詰9回の攻防を迎えた。
9回表の札幌ホワイトベアーズの攻撃は、5番の下山選手から。
京阪ジャガーズの抑えは、ご存知ギャレット投手。
(え、誰だ、そいつですって?
238話を参照して下さい。作者より)
160km/h近くのストレートと高速スプリット、チェンジアップが武器の抑えの切り札だ。
下山選手は三振に倒れ、ロイトン選手の場面で、湯川選手が代打に告げられた。
恐らく9回裏の守備は、守備固めで蜂屋選手が出るのだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます