第283話 沖縄キャンプにて
札幌ホワイトベアーズのキャンプは、最初からA、B、C、Dの4班に別れる。
泉州ブラックスでは、最初の1週間は一箇所で練習し、それから班に別れたので、これよりもシビアである。
大まかに分けると、各班に所属する選手層は次のとおりである。
A班は一軍のスタメン候補組、B班は開幕一軍生き残りボーダーラインの選手、C班は二軍選手と新人選手、D班はベテランや故障からのリハビリ中の選手。
また、各班の入れ替りが激しいのも、札幌ホワイトベアーズのキャンプの特徴である。
キャンプイン時、僕はA班、谷口と五香選手はB班に振り分けられた。
そして谷口はすぐにA班に上がってきた。
久しぶりに谷口の打撃練習を見て、驚いた。
元々ライナーを打つのが得意な選手であったが、今もそれは変わらない
以前よりも、振りがコンパクトで鋭くなっており、どこのコースに来ても逆らわずに左右に打ち分ける。
そして飛距離も出ているのだ。
間違いなく、谷口の打撃は進化している。
きっと昨シーズン、一軍に呼ばれない悔しさを練習にぶつけたのだろう。
いくら2軍でも技術が無いと、突出した数字は残せない。
僕は今季、谷口が飛躍の年となることを確信したし、だからこそチームもキャンプ序盤にA班に昇格させたのだろう。
もっとも谷口には守備位置の問題がある。
元々外野手であるが、走力も肩もプロ野球選手の中では平凡である。
札幌ホワイトベアーズが所属するシーリーグは、指名打者制度が無いので、試合にフル出場するためには守備につく必要がある。
以前から、谷口は出場機会を増やすため、一塁の練習にも取り組んでいる。
静岡オーシャンズ時代も一塁守備に取り組んだが、谷口は身体がやや硬いので、足を開いて捕球するのが苦手であり、またショートバウンドへの対応にも課題があった。
だが久しぶりに見た、谷口の一塁守備は安定感を増しており、特にショートバウンドの処理については、かなり上達していた。
相当努力をしたという事が、そこからは伺い知れた。
よし、僕だって負けちゃいられない。
今季の目標について、規定打席到達にゴールデングラブ賞の獲得もプラスしよう。
(純粋にあの金色の革で作ったグラブが欲しい)
一方で五香選手はというと、メジャー流の調整というのか、投打ともスローなスタートを切っているらしい。
班が違うし、投手と野手では練習メニューも全然違うのだが、コーチが話しているのを聞くと、まだ実力の片鱗を見せていないようだ。
僕自身、五香選手が投打の二刀流で、どんなプレーをするのか楽しみにしている。
さてキャンプは4勤1休となっており、休みの日はしっかり休んでリフレッシュするのも重要である。
若い頃は体力に任せて、休日返上で練習したものだが、開幕に向けて、キャンプそしてその後のオープン戦は約2ヶ月の長丁場である。
途中で息切れしたり、故障したら元も子もない。
というわけで最初の休日には、僕と谷口、五香選手の3人で外出し、ビーチの散策や、軽くドライブしてリフレッシュした。
また毎日結衣から送られてくる、翔斗の動画や画像を見るのも楽しみである。
生後4ヶ月を迎え、首も据わり、お気に入りは静岡オーシャンズのイルカのぬいぐるみだそうだ。
なかなか泣き止まなかった時に、札幌ホワイトベアーズのマスコットの白いクマを見せても泣き止まず、近くにあった静岡オーシャンズ時代のイルカのマスコットのぬいぐるみを見せたら、ピタッと泣き止んだそうだ。
ちなみに泉州ブラックスの黒鷲を模したキャラクターのぬいぐるみについては、何度渡してもポイッと投げ捨てたそうだ。
これが僕の将来を何か暗示するのか?
いやきっと全く関連性は無いだろう。
やがて2月下旬となり、キャンプの打ち上げ時期を迎えた。
僕も谷口も調整は順調であり、A班のままキャンプを終えたが、五香選手は最後までB班のままだった。
きっとその実力のベールを脱ぐのは、オープン戦が始まってからだろう。
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