第129話 新居と年末恒例行事
新居はすんなりと決まった。
最寄りの地下鉄の駅まで徒歩5分で、駅からは一軍の球場へ地下鉄1本で行けるし、結衣の勤める病院にも地下鉄2本乗り継いで行ける。
(蛇足だが、2軍の球場へのアクセスも悪くない。
もう行きたく無いが……)
間取りは2LDKで、15階建ての12階、家賃は管理費込みで11万円ちょっとだ。
僕と結衣の収入で充分に支払う事ができる。
結衣が住宅情報誌で見つけ、不動産屋に案内してもらい、2人で見て、すぐに決めた。
特に窓から見える街の景色が気に入った。
遠くに海が見え、夏は窓から花火大会も見えるというのも決め手の1つだ。
僕は12月末には寮を追い出されるので、先に引っ越した。
といっても荷物は少ないので、2トントラック一台分で充分に余裕があった。
これまで寮にいたので、洗濯機に乾燥機、掃除機、冷蔵庫、電子レンジ、テレビ等の家電製品や家具、カーテン、カーペット等、生活に必要な物を一通り買う必要がある。
結衣に全部任せていたら、届いて驚いた。
どこで見つけたのか、部屋中、白やピンク色の家電やカーテン、家具で溢れた。
遊びに来た妹は目を輝かせていたが、住むのは僕である。
知らなかったが、妹と結衣は好きな物の趣味が似ているのかも知れない……。
結衣は1月中に引っ越してくる予定であるが、それまでこの白とピンク色の部屋で一人で住むのは辛いものがある……。
僕と結衣は元旦付けで籍を入れることにした。
なお、結婚式は来シーズンオフに身内だけで行う。
結衣の希望で、奮発してハワイで行うこととした。
母親と妹は初の海外旅行となるので、今から楽しみにしているようだ。
年末に二人してスーツケースを買ってきた。
早すぎやしないか。
年末は恒例のあれとあれがある。
1つは高校時代の野球部の粗野な連中と、1つは静岡オーシャンズの愉快なドラフト同期達との、忘年会だ。
まず、高校時代の野球部の愚連隊との忘年会には、結衣と一緒に参加した。
婚約したことを発表すると、会場は阿鼻叫喚に包まれた。
この世の中に神も仏もないと嘆く奴(新田)、美女と珍獣と言う奴(葛西)、結衣に対し考え直すように必死に諭す奴(山崎)、僕が結衣に内緒にしていた、ちょっとした悪事をばらす奴(平井)、等々。
改めて高校時代に苦楽を共にした仲間のありがたみを……、全く感じなかった。
帰り道、結衣からは平井達の話の真偽について厳しい追及を受けた。
何とか誤魔化したが、その冷たい視線は、僕の弁明を信じていないことを物語っていた。
覚えてろよ。
お前らが結婚する時、その結婚相手に無いこと無いことばらしてやるからな、と僕は心に固く誓った。
静岡オーシャンズのドラフト同期との忘年会は、今回は三田村の幹事により大阪で行った。
早いものでドラフトから5年が経ち、その間に飯島さんと三田村は引退し、僕と竹下さんは移籍。
チームに残っているのは、杉澤さん、谷口、原谷さんの三人だけになった。
それでも7人が全員集まれたのはうれしいし、凄いことかもしれない。
今シーズン、杉澤さんは3勝9敗で防御率も6点台と不調のまま終わってしまった。
これまでの勤続疲労もあるのか、杉澤さんらしいピッチングが少ないシーズンであった。
竹下さんも川崎ライツに移籍して、シーズン当初はスタメン出場もあったが、次第に出場機会が減り、32試合の出場で打率も.205に留まった。
年齢的にも来期が正念場かもしれない。
一方で谷口と原谷さんは自己ベストの成績を残した。
谷口は62試合でホームランを7本打ち、プチブレイクを果たした。(打率は.238)
特に9月に5本のホームランを放ち、終盤は4番も打ち、来季に向けて大きな期待を受けている。
原谷さんは、シーズン前はオフの戦略外候補筆頭と言われていたが、プロ5年目にして狂い咲き、72試合でホームランを9本放った。(打率は.223)
相変わらずキャッチング技術には課題があるが、肩も強いので、来季は正捕手の座を狙うだろう。
飯島さんは来季から古巣の社会人野球チームの監督に就任し、三田村は大学生活を満喫しているようだ。
「隆、結婚おめでとう」
飯島さんの音頭で乾杯した。
そしてお祝いまで頂いた。
(帰って開けたら、ベビー服と商品券だった。
選んだのは三田村ということだ)
三田村はこの会に結衣を連れてくるようにしつこく言っていたが、僕は強く拒否した。
「何で結衣ちゃん、連れてこなかったんだよ。
折角、隆の悪事をばらしてやろうと思ってたのに、残念だな」と三田村。
だからだよ。
予想通りだ。
ただでさえ、この間の忘年会で僕と結衣の間はギクシャクしているのに、三田村からあること無いことを吹き込まれたら、婚約が破談になりかねない。
後ろめたいことの1つや2つや3つはあるし……。
(ちなみに結衣といる時に、偶然に街中で三田村と遭遇したことがあり、三田村は結衣と面識はある。
しかもその際にちゃっかり夕飯にまで付いてきた……)
年が明けると、僕もプロ6年目。
新人王の資格も失ったし、もはや若手とは言えないかもしれない。
家庭も持つし、より一層頑張らないと。
ちなみに二次会の誘いは断った。
これ以上、ばらされたら困るネタを作りたくない。
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