第377話 接戦は続く

 初球。

 内角へのシンカー。

 とりあえず一球見ていくか。

 そう思っていたら、少し球の軌道がおかしい。


 あっ、と思った時には腰にボールが当たっていた。

 痛っ…。


 でも良かった。

 役割は果たせた。

 僕は球が当たった部位を抑えながら、駆け足で一塁に向かった。

 スタンドからは拍手を受けた。

 

 一塁にベースに到達し、ベンチを見ると、麻生バッテイングコーチが深く頷いている。

 単なる結果オーライだが、良かった、ベンチに戻ることができそうで。

 

 リーリーリー。

 高校時代、ある試合でこう言いながらリードを取っていたら、相手ベンチから、「一塁にセミいるぞ」と野次を飛ばされた。

 相手方のみならず、味方ベンチも爆笑し、僕も苦笑した。


 それはさておき、大事なランナーだ。

 二塁に進むに越したことは無いが、最悪は牽制球に刺されることだ。

 それだけはしてはいけない。


 3番打者は道岡選手。

 ここはバントは無いだろうから、あってもヒットエンドランか。

 そう思いながら、ベンチのサインを見ると、盗塁のサイン。

 え、この場面で?


 道岡選手は何とバントの構えをしている。

 まさか僕、サインを見間違えていないだろうな。


 牽制球を2球挟んでからの、道岡選手への初球。

 僕はスタートを切った。

 そして道岡選手はバントの構えからバットを引いた。

 よし良いスタートを切れた。


 僕は懸命に走り、二塁に滑り込んだ。

 それと同時に大隅捕手からの送球が来た。

 凄いストライク送球だ。

 タイミングは微妙かもしれない。

 判定は?

 

「アウト」

 二塁塁審は必要以上に大きなジェスチャーをした。

 ちょっとムカつく…。

 札幌ホワイトベアーズベンチは当然リクエスト。


 僕はふとベンチの麻生バッテイングコーチを見た。

 何かジェスチャーをしている。


 麻生コーチは走る仕草をし、それから左手の握りこぶしを親指だけ立てた。

 今度はベンチを指差し、またバッテンを作った。


 何だ何だ?

 つまり、もしアウトになったら…、ベンチには…、戻ってくるな…。

 そういうジェスチャーに見える。

 そんな殺生な…。

 僕はベンチのサインどおりに走っただけなのに…。


 バックスクリーンのオーロラビジョンに、さっきの場面が色々な角度から映し出されている。


 観客席の札幌ホワイトベアーズファンの反応を見ると、あまり芳しくない…。

 やがて審判が出てきた。

 判定は?

 

「アウト」

 やっぱりか…。

 僕は俯き加減でスゴスゴとベンチに戻った。

 そして麻生コーチと目を合わせないように、こっそりとベンチの隅に座った。

 

 あれは仕方ないと思う。

 大隅捕手の送球が良すぎた。

 きっとさっきのホームランで、気を良くしているのだろう。


 その後、道岡選手がヒットで出塁し、ダンカン選手は良い当たりのセンターへのライナーを放ったが、国分選手に好捕された。

 うーん、流れが良くないね。

 結局この回は3人で終わってしまった。


 同点とは言え、7回からは継投に入った。

 まずはルーカス投手。

 簡単に9球で三者凡退に抑え、軽快な足取りでベンチに帰っていった。

 これで相手チームに行きかけた流れを引き戻した。


 7回裏の攻撃は、5番の下山選手からであったが、三者凡退に終わった。


 8回表はベテランの大東投手。

 ランナーを1人出したものの、無失点に抑えた。


 そして8回裏。

 8番の上杉捕手からの打順なので、ランナーが1人出れば、僕に打順が回る。

 だがこの回も熊本ファイアーズの誇る救援陣の前に三者凡退に終わった。


 あれ?

 次の回は僕からの打順だ。

 もしかしてサヨナラホームランの流れかな?

 その前にこの回を無失点に抑えないと。

 僕はネクストバッターズサークルから、ベンチに戻り、ヘルメットを取り、グラブを掴み、フィールドに飛び出した。



 


 

 

 

 

 

 


 

 

 

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