第376話 クライマックスシリーズ第一戦
2年ぶりのクライマックスシリーズ出場。
しかもファーストシリーズは、ホームで行われる。
否が応でもテンションが高まる。
ワクワク。
クライマックスシリーズのファーストステージは、最大3戦で2勝した方が勝ち抜ける。
万が一1勝1敗で3戦目が引き分けの場合は、2位のチーム。
つまり札幌ホワイトベアーズが勝ち残る事になる。
初戦の先発はもちろんエースの青村投手。
対する熊本ファイアーズは、右のアンダースローの八代投手を先発に立ててきた。
今シーズンは7勝3敗と勝ち越している。
シンカーが厄介な投手だ。
右バッターにとっては、内角に食い込みながら、落ちてくる。
そして外角に逃げて行くカーブも打ちづらい。
ストレートは最速130km/h程度だが、浮き上がってくるので、体感的にはかなり速く感じる。
つまり僕にとっては苦手な投手だ。
今日のスタメンは以下の通り。
1 ロイトン(セカンド)
2 高橋(ショート)
3 道岡(サード)
4 ダンカン(ファースト)
5 下山(センター)
6 駒内(ライト)
7 水木(レフト)
8 上杉(キャッチャー)
9 青村(ピッチャー)
僕と下村選手以外は左を並べた。
(水木選手はスイッチヒッター)
1番をロイトン選手にしたのも、右腕対策だろう。
初回は青村投手が三者凡退に抑えた。
さすがエースである。
「よっ、大統領」と心の中で思った。
(口に出すと多分殴られるだろう)
1回裏、ロイトン選手はいきなり初球を打ち、ツーベースヒットを放った。
よし先制タイムリーをかましてやるぜ、と気合を入れてバッターボックスに入ったが、サインは送りバント。
そりゃ、そうか。
変化するとは言え、速い球よりはバントをやりやすい。
僕はうまく一塁線に転がした。
無事、送りバント成功。
チャラリーン、タラララララ、ラララー。
僕は必殺仕事人のテーマ(トランペット)を脳内再生しながら、ベンチに戻った。
そして道岡選手がキッチリと犠牲フライを放った。
またしても必殺仕事人のテーマが脳内を流れた。
続くダンカン選手は凡退したものの、幸先よく1点を先制した。
さあ次も仕事だぜ。
ということで、ショートの守備位置に着いた。
クライマックスシリーズということで、球場内も超満員のお客様に来ていただいている。
ここで無様なプレーはできない。
2回表、打者3人ともショートゴロとなり、いずれも軽快に捌いた。
何で僕のところにばかり、打球が来るのだろう。
青村投手がショートに打たせるように投げているのか、「ショートが穴だ。打ち続ければ、いつかエラーするぜ」ということで狙い打ちしているのかわからないが、恐らく前者だろう。
次は札幌ホワイトベアーズの攻撃だったが、簡単に三者凡退に終わった。
わずか5球。
八代投手の投げる球は、球速的には速くないので打てそうに思うが、実際に打席に立たないとその凄さがわからないと思う。
そして試合は膠着状態となり、速いペースで5回裏の攻撃を終えた。
僕の2打席目は3回裏に回ってきたが、外角へのカーブを打たされて、ファーストゴロ。
ここまで青村投手は67球投げているのに対し、八代投手は39球。
かなりの省エネ投球だ。
6回表も青村投手が続投した。
しかしながら簡単にツーアウトを取った後、まさかの伏兵、今シーズンホームラン1本の大隅捕手にホームランを打たれてしまった。
これで1対1の同点となった。
そして、6回裏。
2番の僕からの打順だ。
「高橋、ちょっと」
麻生バッティングコーチに呼ばれた。
「まさかと思うが、ホームラン狙っていないよな」
ギクリ、何でバレたんだ…。
「いえ、そんな滅相もございません」
「そうか、それなら良いが…。
お前の役割は塁に出ることだ。
もし塁にでなかったら、ベンチに戻ってこなくて良いからな」
読者の皆様に伺います。
これはパワハラではないでしょうか?
「はい、それくらいの気持ちで頑張ります」
僕は優等生的な模範回答をして、バッターボックスに向かった。
しかし簡単に塁に出ろと言うが、八代投手はコントロールが良いのでフォアボールは出さないし、あのシンカーを打っても内野ゴロにしかならない気がする。
外角へのカーブを拾っても、せいぜいファーストゴロかセカンドゴロだろう。
さてどうするか。
僕は頭を捻りながら、打席に入った。
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