第223話 いよいよ交流戦
「あら、帰ってたの。早かったわね」
「今日は前日練習が免除になったんだ」
「そうなの。すごいわね。打率3割に乗ったんでしょ」
結衣はバックからスポーツ新聞を出した。
規定打席には到達していないが、スポーツ新聞の規定打席未満の主な打者という欄の上から二番目に僕の名前が乗っている。
「私の友達にもお兄ちゃんの事を知っている人、結構いるんだよ。
サインが欲しいという人は全くいないけど」
最後の言葉は余計だと思う。
僕がバックからアイスクリームの券を出すと、結衣がその半分を妹に渡した。
「ありがとう、結衣さん」
あのー、それもらってきたの僕なんですけど。
「で、就職活動はどうだ」
「大丈夫よ。何社か最終面接に行けそうなの」
「卒業はできるんだろうな」
「当たり前でしょ。
お兄ちゃんじゃあるまいし」
僕は反論できなかった。
というのもドラフト指名後、遊びすぎて危なく出席日数不足で卒業できない恐れがあったのだ。
追試、補習をしてくれたその時の担任の先生には感謝してもしきれない。
「明日の試合、見に行くわね」と結衣が言った。
「お前も来るのか?」と妹に聞いた。
「私は何かと忙しいから」
さっき暇だと言っていなかったか?
「麻衣さんも行こうよ」
「えー、忙しいんだけどな。
まあしょうがないか。たまには行ってあげるか」
だーかーらー、何でお前は上から目線なんだ。
僕はマネージャーに電話し、チケットを4枚手配した。
結衣と妹、母親の分だけなら3枚で良いはずであるが、妹の友達も来るとの事である。
「その友達にサインボール書いてやろうか?」
「大丈夫。間に合ってます」
以前、球場で僕が投げ込んだサインボールを血眼で取ろうとしていたのは誰だっけ?
そう指摘すると、「別にお兄ちゃんのサインボールが欲しかったわけじゃないの。
ただみんなが手を伸ばしていたから私も伸ばしただけ。
みんなが欲しい物は私も欲しいの」
意味がわからん。
ということで、妹は今日も泊まっていった。
布団と枕、パジャマだけでなく、歯ブラシ、タオル、下着まで我が家に置いており、もはや別荘扱いである。
中京パールスとの初戦は相手がベテラン右腕の大須投手とあって、僕はベンチスタートだった。
試合は大須投手にのらりくらりとかわされ、3対0で敗れた。
折角家族が見に来てくれたが、僕は出場機会がなかった。
右投手の時にも出場できるように信頼を高めなければ…。
翌日の試合は、中京パールスの先発がドラフト1位入団の新人左腕、新宮投手ということで、僕は9番ショートでスタメン出場となった。
だが打っては3打数ノーヒット、守ってはツーアウト三塁の場面で鋭い打球を弾く、タイムリーエラーをしてしまった。
8回の打席で代打を出され、途中でベンチに退いた。
こんな日もあるさ。
明日、明日。
切り替えていこう。
結局、チームは4対2で敗れ、首位との差を縮めるどころが逆に返り討ちにあってしまった。
移動日を挟んでいよいよ明後日からはシーリーグとの交流戦が始まる。
シーリーグの投手は普段対戦が無いので、ほとんど初見である。
もちろん試合前のミーティングではビデオを見るが、画面を通してみるのと、実際に打席に立つのでは球筋が全く異なる。
例えばスピードガンでは150km/h以上出ていても、打席に立つとそこまで速いと感じない投手もいるし、逆に球速は130km/h程度でも手元で伸びて、もっと速く感じるような投手もいる。
交流戦は普段行かない場所に行けるという意味でも楽しみである。
札幌、仙台、川崎、京都、岡山、熊本。
2年に一回であるが、これらの場所に行ける。
今年はアウェーでの試合は、仙台、京都、熊本。
そして最初の対戦カードはアウェーでの熊本ファイアーズ戦である。
僕らは飛行機で熊本入りした。
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