第224話 火の国とロマン砲の現在地

 熊本といえば、高校時代のチームメイトである平井がいるが、今年はまだ一軍出場がない。

 プロ入り2年目に7本、3年目には二桁の10本のホームランを打ち、熊本ファイアーズとしては期待のロマン砲として多くの出場機会を与えたのだが、当たれば飛ぶがほとんど当たらない、打率も1割台が定位置とあって、年々出場機会を減らしていた。


 静岡オーシャンズの谷口も、今シーズンは一軍出場が無く、高校時代は東の谷口、西の平井と並び称された、期待の長距離砲の二人だったが、厳しいプロ7年目を過ごしていた。


 平井は今年は二軍でもあまり数字が良くない。

 打率.210、ホームラン3本。

 スタメンでの出場機会も減っており、チーム内での立場が微妙になっていることが伺える。


 その点、谷口は二軍では打率.369、ホームラン10本と無双とも言える成績を残しており、むしろなぜ一軍で使われないのだろう、と思う。


 平井は高校入学時からスーパールーキーとして、山崎と共に別格の存在であった。

 一年生の時からスタメン出場し、僕や葛西、新田のように一年生特有の下積みも経験していない。

 だから今のような境遇には慣れていないだろう。


 僕は熊本ファイアーズの本拠地の肥後スタジアムに入り、平井の姿を探したが、やはりいなかった。

 今日は二軍はアウェーでの岡山ハイパーズがあるので、そちらの方に帯同しているのだろう。


 熊本ファイアーズとの初戦、第二戦は相手先発が右投手ということで、僕はスタメン出場がなかった。

 シーリーグがホームの場合は、指名打者がないので、ピッチャーも打席に立つ。

 このため、2試合とも代打出場したが、いずれも内野ゴロに倒れてしまった。

 今シーズンはここまで81打数23安打、打率.284でホームラン2本。

 昨年がシーズン通算で98打数26安打の打率.265、ホームラン3本だったので、シーズン半ばも行かない中での数字としては決して悪くは無い。


 1勝1敗で迎えた、熊本ファイアーズとの3試合目は、左腕の伊東投手ということで、スタメン出場となった。


 1 伊勢原(セカンド)

 2 山形(ライト)

 3 岸(センター)

 4 岡村(ファースト)

 5 宮前(レフト)

 6 水谷(サード)

 7 高橋隆(ショート)

 8 高台(キャッチャー)

 9 三ツ沢(ピッチャー)


 最近は1番か9番でのスタメンが多かったので、7番での出場は久しぶりだ。

 ここ5打数連続で凡退しているので、今日は一本はヒットを打ちたいところだ。


 肥後スタジアムは火の国熊本をイメージしてか、赤を多く使用している。

 熊本ファイアーズのユニフォームも赤を基調としたスタイリッシュな装いとなっている。

 熊本ファイアーズの選手がホームランを打つと、バックスクリーンから火柱を模したような花火の演出があるのも、この球場の特徴である。


 1回表、泉州ブラックスの攻撃は三者凡退に終わり、その裏、三ツ沢投手はいきなり熊本ファイアーズ打線につかまり、3点を失った。


 そして2回表も三者凡退となり、その裏に今度はツーランホームランを打たれた。

 バックスクリーンから早速、火柱花火が上がった。

 これで5対0。

 ちょっと厳しい展開だ。

 そしてツーアウトながらフォアボール2つでランナー一、二塁となった場面で、泉州ブラックスベンチは三ツ沢投手を諦め、三沢投手をマウンドに送った。

 三沢投手は何とか後続をレフトライナーに打ち取り、この回を終えた。

(打たれた瞬間は長打かと思ったが、宮前選手の正面だった)


 3回表、僕からの打順であり、雰囲気を変えたいところだ。

 伊東投手の代名詞は、何と言ってもストレート。

 左腕であるが、軽く150km/hを超え、チーム名にちなんでファイアーボールと呼ばれている。


 初球。

 内角膝下へのストレート。

 見逃した。

 ボールワン。

 見ている方は悠々見逃したように見えたかもしれないが、単に手が出なかっただけである。

 やはり凄い球だ。

 球が唸っているように見える。


 2球目。

 外角高めへのストレート。

 これも手が出なかった。

 ボールツー。


 3球目。

 真ん中低めへのストレート。

 空振りした。

 打てるか、こんな球。

 そんな風にすら思った。


 4球目。

 外角低めへのストレート。

 見逃してボールスリー。


 そして5球目。

 低めへの素晴らしい球。

 スプリットか?

 手がでなかった。

 しかし判定はボール。

 僕は表情を変えないように努めながら、一塁に歩いた。

 良かった…。

 出塁できて…。



 

 

 

 

 

 

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