第533話 ラッキーパンチ?

 札幌ホワイトベアーズのスタメンは以下の通り。


 1 高橋(ショート)

 2 湯川(セカンド)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 下山(センター)

 6 谷口(レフト)

 7 九条(ライト)

 8 武田(キャッチャー)

 9 須藤(ピッチャー)


 3番は道岡選手。

 シーズン当初の不振から立ち直りつつあり、打率も.263まで上げてきた。

 そして7番は今季初スタメンの九条選手。

 ご存知(?)、育成出身の27歳で身長167cmと小柄だが、俊足が武器のスイッチヒッターであり、内外野守れるガッツマンである。


 一軍に昇格してすぐのスタメン起用は、停滞するチーム状況を踏まえ、起爆剤となることを期待してのことだろう。

 年俸も700万円とスタメンメンバーの中で唯一、1,000万円に満たない。

(それでも昨シーズンよりは大幅にアップした)


 岡山ハイパーズの先発は、蒔田投手。

 プロ3年目の左腕であり、今や左のエース級となっている。

 威力のあるストレートに、ツーシーム、チェンジアップ、フォークが厄介な投手だ。


 とは言え僕としては、対戦打率は3割を超えており、決して苦手なタイプではない。


 1回表、バッターボックスに立った。

 この球場はピーチドームという名前のとおり、外野フェンスは濃いピンク色だし、その他至る所にピンクが使われている。

 外野フェンスは緑か青の球場が多いので、この球場は特徴的である。

 

 さて打率も下がってきたし、そろそろ固め打ちしたいところだ。

 首位打者は厳しいかもしれないが、盗塁王はまだまだ狙えるし、打率も3割は何とか打ちたい。


 そしてこの打席、ワンボール、ツーストライクからのフォークをうまく掬い上げた。

 打球はセンターに飛んでいる。

 ちょっと当たりが良すぎたか?

 抜ければ長打になるが、センターはゴールデングラブ賞の常連で、名手の水沢選手。

(付け加えると、現在打率1位でもある)


 水沢選手はまだ向こう向きで下がっている。

 どうだ、抜けるか?


 僕は全速力で走りながら、横目で打球の行方を追っている。

 水沢選手はフェンスギリギリに到達し、グラブを構えている。

 そしてジャンプした。


 どうなったんだ?

 スタンドが大きく湧いている。

 あれはどっちのファンだ?


 見ると1塁塁審が腕を回している。

 嘘、入ったのか?


 僕は夢見心地のまま、一塁を蹴って二塁に向かった。

 札幌ホワイトベアーズファンが大きく湧いているのが目に入った。

 やったぜ。

 先頭打者ホームランだ。


 シーズン半分もいかないのに、早くも今シーズン5本目だ。

 このままのペースなら二桁ホームランも夢じゃないかも。

 これまでプロ最高が6本なので、まずはこれを上回りたい。


 僕はパワーヒッターではないが、嵌まれば長打力もあるんだ、ということをアピールしたい。


 ダイヤモンドを一周し、チームメートとハイタッチし、ベンチに戻った。

 蒔田投手は好投手だが、左対右ということもあり、感覚的に打てそうな気がする。

 2打席目以降もヒットを打って、打率を上げたい。


「ナイスバッティングでした」

 九条選手がやってきて、握手を求めてきた。

「うむ、そなたも頑張れよ」

「けっ、偉そうに。ラッキーパンチみたいなもんだろう」

 相変わらず谷口が悪態をついた。

 君ね、人の成功を喜べないと器が小さいと言われるよ。

 

「打ったのはフォークか?」

「多分な。正直、あまり落ちなかった」

「だろうな、あのフォークはわかっていても打てるものではない」

 

 まあ、確かに谷口の言うとおりだ。

 ストライクゾーンからボールゾーンに落ちる蒔田投手のフォークは一級品であり、決まれば打てるような球ではない。

 しかし落ちないフォークはただの棒球であり、そこをうまく捉えることができた。

 それでもセンターの1番深いところに放り込んだ事は、自信になる。


 この回、続く三人が三者連続三振に倒れたことからも、蒔田投手は良い投手であることが伺える。

 我ながら良く打ったものだ。


 僕はファンの声援にこたえながら、良い気分でショートの守備位置についた。

 

 


 

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