第532話 いさ岡山
交流戦は9勝9敗の五分に終わり、この間に京阪ジャガーズとは0.5ゲーム差まで詰められた。
僕個人は、交流戦18試合で73打数17安打の打率.233と不調に陥り、シーズン通算打率も.291と3割を切ってしまった。
ここまで59試合で、230打数67安打、打率.291、ホームラン4、打点19、盗塁22(盗塁死5)。
打率は首位の水沢選手の.341から大きく離され、盗塁もトップの高輪選手の26個から差が開きつつある。
でもシーズンはまだまだ前半。
これから調子を上げていけば良いさ。
そう思いながら、久しぶりに札幌の自宅に帰った。
交流戦が終わってから、シーズン再開までは4日間開く。
再開後初戦はホームでの熊本ファイアーズ戦なので、少し休んで気分転換しろ、との首脳陣からのお達しだ。
「ねぇ、話があるの」
家に戻り、久しぶりに会ってはしゃぐ翔斗を何とか寝かしつけ、リビングのソファーに座ったら、結衣がそう切り出した。
「何、話って?」
「あのね、もう一人できたみたいなの」
「できたって…。もしかして」
僕が結衣のお腹付近を見ると、結衣は恥ずかしそうに頷いた。
「そうか…。
今度は男の子かな、女の子かな」
「どっちが良い?」
「うーん、どっちも良いね。
もう一人男の子でも良いし、女の子も可愛い」
もちろん驚いたが、それ以上に喜びが大きい。
「予定日は?」
「お医者さんの言うところでは、来年の3月だって」
「3月か…」
3月と言えばキャンプの真っ只中だ。
もし僕が大リーグ挑戦していたら、アメリカにいるだろうし、万が一ポスティングが認められず、トレードに出されたら、札幌以外のチームでキャンプを迎えているだろう。
「3月は色々と大変な時になるわね」
「まあ、何とかなるさ」
僕は結衣の髪をやさしく触りながら、囁いた。
「そうね。これまでも何とかなってきたものね」
「そうさ、何とかなるものさ」
そうだ。
これまでも何とかなってきた。
僕がプロ入りした時、10年もプレーして、こうしてレギュラーで試合に出ていることを想像していた人がどれくらいいただろうか。
ましてや条件付きとは言え、大リーグ挑戦なんて昔の僕からは想像すらできなかった。
そう考えると、今、こうしていることが奇跡なのかもしれない。
「でも、もし大リーグ挑戦となったら、しばらくは日本にいた方が良いね」
「そうね。でも渡航できるようになったら、私もアメリカに行くわ。
うちのお母さんがついてきてくれるって、言っているし。
うちのお母さんは英語話せるのよ」
そう言えば昔、聞いたことがあったかもしれない。
もしお義母さんがついてきてくれれば、とても心強い。
なお、妹も英語は話せる。
だが仮について来ると言っても、丁重にお断りする。
(さすがの妹でも三田村を置いて、ついてくることは無いだろう)
交流戦明けの熊本ファイアーズとの三連戦は1勝2敗、続く川崎ライツとの二連戦は1勝1敗となかなか波に乗り切れない。
もっともこの間、京阪ジャガーズも同じく2勝3敗と付き合ってくれたので、ゲーム差は0.5ゲーム差のままだ。
チームの成績と僕の成績は一種の相関関係にある。
逆に言うと、切り込み隊長の僕が調子を落としていると、チームの得点力も上がらないのかもしれない。
この5試合で僕は19打数3安打と中々調子が上がらず、シーズン通算打率も.281まで落ちてしまった。
もっともこの5試合の間に盗塁は3つ決め、首位の高輪選手と2つ差に縮まってきた。
そして移動日を挟んで、次のカードはその盗塁争いをする岡山ハイパーズとのアウェー三連戦だ。
岡山ハイパーズはここ数年、下位に低迷するシーズンが続いていたが、今シーズンはベテランと新戦力がうまく噛み合って、3位につけている。
首位の札幌ホワイトベアーズと3位の岡山ハイパーズとは、1.5ゲーム差まで縮まっており、また4位の川崎ライツも2.0ゲーム差で追ってきている。
つまり、今シーズンのシーリーグは2.0ゲーム差の中に4チームがひしめく混戦となっている。
岡山ハイパーズには、現在首位打者の水沢選手(打率.329)、ホームラン王のロドリゲス選手(21本)、盗塁王の高輪選手(27個)とタイトル争いに絡んでいる選手が3人おり、彼らが上位打線を形成する打線は脅威となっている。
チームバスは岡山ハイパーズの本拠地、岡山ピーチドームに到着した。
今日の岡山ハイパーズの予告先発は、ドラフト1位入団の新人、星野投手。
ここまで新人ながら、5勝(1敗)と新人王争いのトップを走っている。
是非、プロの厳しさを味あわせてやる。
僕は気合を入れて、ピンク色の外壁をした、岡山ピーチドームを見上げた。
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