第534話 君の粘りは僕が活かす

 先発の須藤投手は1回裏を無失点に抑え、2回表の攻撃を迎えた。


 この回は5番からの打順だったが、下山選手、谷口と連続三振に倒れ、ツーアウトランナー無しで、九条選手の打順を迎えた。


 蒔田投手は現在、五者連続三振を取っている。

 スイッチヒッターの九条選手はこの打席は右打席に入った。


 初球、ツーシーム。

 打ちに行ったが、ファール。


 2球目。

 チェンジアップ。

 見送ったが、外角低めギリギリに決まった。

 ノーボール、ツーストライク。

 簡単に追い込まれた。


 そして追い込まれたら、伝家の宝刀、フォークである。

 これで湯川選手以降の5人は連続で三振した。

(唯一、打ったのは僕である。

もっと褒めてもらっても良いと思う)


 そして3球目。

 内角高めへのストレート。

 これは見送ってボール。

 これで内角へ目付けをさせて、決め球のフォークである。


 4球目。

 予想通り、フォーク。

 九条選手は辛うじてバットに当てた。

 今のは良く当てたと思う。

 ストライクゾーンからボールゾーンへ変化する、素晴らしいコースだった。


 5球目。

 またしてもフォーク。

 連投だ。

 九条選手のバットはでかかったが、止まった。

 判定はボール。

 これでツーボール、ツーストライクの平行カウントになった。


 そして6球目。

 チェンジアップ。

 フォークに目付けがあったと思うが、これもバットに何とか当てた。


 7球目、またもやフォーク。

 これもファール。

 やるじゃないか。


 8球目、しつこくフォーク。

 これもファール。

 良いぞ、良いぞ。

 例えこの打席、凡退してもその粘りは必ず次の回以降、生きるはずだ。


 9球目、外角へのチェンジアップ。

 これも体勢を崩しながらも、食らいついていった。

 ファール。


 蒔田投手の表情にも少し苛つきが見える。

 楠捕手がタイムを取り、マウンドに向かった。


 そして10球目。

 ストレート、いやツーシームだ。

 これもファール。

 カウントはツーボール、ツーストライクのまま。


 11球目。

 フォークボールか?

 九条選手のバットはこれを捉えた。

 打球はピッチャーの足元、そして二遊間を抜け、センターに到達した。

 粘りに粘った末の見事なセンター前ヒットだ。


 次の武田捕手はセカンドゴロに倒れ、この回は無得点に終わったが、九条選手の粘りはきっと次の回に生きる。

 いや、生かしてみせる。

 僕は守備位置につく際に、ベンチに戻る九条選手とすれ違い、肩をポンと叩いた。


 2回裏は須藤投手がヒットとフォアボールでピンチを背負ったものの無失点でしのぎ、3回表の攻撃を迎えた。


 3回表はピッチャーの須藤投手からの打順だが、簡単に三振し、ワンアウト。


 僕は今日、2打席目のバッターボックスに向かった。

 今日の蒔田投手はここまでアウト7個のうち、6個を三振で奪っている。


 僕は立ち上がりをうまく捉えたが、蒔田投手は完全に立ち直っており、さっきのリベンジを狙っているだろう。


 初球、ツーシーム。

 我がチームはこの球を打ちあぐねている。

 ということは当然、僕はこの球を狙っている。


 アチョー。

 打球は強いゴロで三遊間の真ん中を抜けていった。

 モンナドンダイ。

 これで2打数2安打。

 僕は悠々と一塁ベース上に立った。


 さて岡山ハイパーズには、盗塁王を争う高輪選手もいる。

 その御前で盗塁を決めて、プレッシャーをかけたいところだ。


 はい、リーリーリー。

 当然、相手バッテリーは僕が盗塁することを警戒している。

 牽制球がきた。

  

 そしてまた、リーリーリー。

 また牽制球が来た。


 しつこくリーリーリー。

 やっぱり牽制球が来た。


 そして蒔田投手は湯川選手に初球を投げた。

 僕はそれと同時にスタートをきっている。

 良いスタートを切れた。

 あとはひたすら二塁ベースを目指すだけ。


 楠捕手からは良い送球が来たが、僕の足が二塁につく方が一瞬早かった。

 判定はもちろんセーフ。

 これでワンアウト二塁。

 湯川ちゃん、頼むよ。

 さっき三振に倒れた反省をここで活かしてよ。 

 

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