第535話 確変継続中?

 湯川選手はプロ入り2年目とは思えない、風格が漂っている。

 昨シーズン、打率.279、ホームラン11本、打点51、盗塁17で新人王に輝き、2年目のジンクスをもろともせず、今シーズンは更に成長の跡を見せている。


 よって簡単に2打席連続で三振に倒れたりしない。

 追い込まれたら、決め球のフォークボールがあることはわかっているので、初球のストレートを積極的に狙い撃ちした。


 打球は一、二塁間をきれいに抜けていった。

 僕はもちろん三塁を回ってホームイン。

 貴重な2点目を獲得した。

 

 そしてトドメは不調から復活しつつある道岡選手のツーランホームラン。

 これで4対0とした。


 岡山ハイパーズの投手コーチがベンチから出てきて、内野陣がマウンドに集まっている。

 蒔田投手はアウトのほとんどを三振で奪っており、決して調子は悪くない思う。

 ただこの回、札幌ホワイトベアーズ打線が、追い込まれる前にストレートまたはツーシームを狙い撃ちした事が良い方向にでた。


 蒔田投手は続投するようだ。

 岡山ハイパーズの守備陣は、定位置に戻った。

 そして4番のダンカン選手をファーストゴロ、5番の下山選手はショートフライに倒れた。


 4点をもらった須藤投手は、伸び伸びと投げており、3回裏、ツーアウト満塁のピンチを招いたものの、無失点に抑えた。


 そして4回表裏は両チームとも無得点に終わり、5回表となった。

 この回は僕からの打順である。

 マウンドにはまだ蒔田投手が上がっている。


 なぜか蒔田投手相手には打てる気しかしない。

 もちろん良いピッチャーなのだが、こういうのを相性が良いというのかもしれない。


 初球。

 内角へのストレート。

 僕は仰け反って避けた。

 もちろんボール。


 初球に内角へ投げたことによって、外角へ踏み込みづらくしたのだろう。


 2球目。

 内角へのツーシーム。

 これも見送った。

 ボールツー。


 3球目。

 外角へのチェンジアップ。

 遠く見えたので見送ったが、ストライク。

 さっきの内角への2球が無意識に残像となって、残っているのかもしれない。


 僕はタイムを取り、一度バッターボックスを外して素振りをした。


 4球目。

 真ん中低めへのストレートか。

 いやフォークだ。

 空振りしてしまった。

 これでツーボール、ツーストライク。

 ここでフォークが来るとは予想外だった。

   

 5球目。

 外角低めへのストレート。

 ファールとした。


 6球目。

 ここはフォークか。

 いやストレートだ。

 そして僕はこの球に的を絞っていた。


 カキーン。

 打球はきれいなライナーとなり、レフト前で弾んでいる。

 3打席連続ヒット。

 僕は1塁ベース上で手を叩いた。

 これで打率も.290まで上がった。

  

 スコアラーによると、あと4打席連続でヒットを打つと、打率3割に復帰できるそうだ。

 うん、無理。

 地道にヒットを1本ずつ積み上げていこう。


 ちなみに首位打者のライバル(向こうは全くそう思っていないだろうが…)の水沢選手は今日は2打数ノーヒットで、打率は.326となっている


 首位打者争いに名乗りを上げるには、せめて.310くらいまで打率を戻さないと…。


 さて盗塁数はトップの高輪選手と一つ差に迫っており、ここで盗塁を決めれば追いつく。


 僕は1塁上から、ライトを守る高輪選手をチラッと見た。

 彼は僕や谷口、五香選手らと同学年であり、僕と同じドラフトで1位指名を受けて入団した選手だ。


 攻走守の三拍子揃った選手であり、今シーズン、海外フリーエージェントの資格を獲得した。

 彼も盗塁王を手土産に、大リーグ挑戦を考えているかもしれない。


 僕が少し大きくリードをすると、当たり前のように牽制球が来る。

 そして一度、戻ってまたリードする。

 すると牽制球が来る。

 我慢比べだ。


 相手バッテリーもそれがわかっているのだろう。

 全く苛ついたような表情を見せない。


 リードして、牽制球をもらうやり取りを4回繰り返したあと、蒔田投手はようやく湯川選手に初球を投げた。

 ちなみに大リーグでは、牽制球は事実上2球までに制限されたそうだ。

 (3球目でアウトにできなければ、進塁が与えられる)


 僕はスタートを切っていない。

 投球は外角へのツーシーム。

 判定はボール。


 2球目。

 どうしょうかな。

 スタートを切ろうかな。

 僕はベンチのサインを確認した。

 フムフム。


 蒔田投手はこっちをじっと見ているが、牽制球は投げず、2球目を投じた。

 そしてその瞬間、僕はスタートを切った。

 

 


 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る