第432話 「あれ」って何だろう?

 交流戦が終わり、札幌ホワイトベアーズは5位だった。

 とは言え、18試合しか無いので、首位とはわずか1ゲーム差だった。


 交流戦で優勝したチームは、スポンサーから三千万円もらえる。

 賞金は大体、チームスタッフを含め、金一封のような形で配るので優勝できなかったことは残念である。


 僕はここ最近はスタメン出場が増え、交流戦終了時点でチーム58試合中、50試合に出場し、100打数29安打、打率.290の成績を残していた。

 ホームラン2本、打点17で盗塁11(盗塁死4)。

 数字的には盛り返してきた。

 

 ちなみに谷口は53試合に出場し、198打数51安打、打率.258、ホームラン7本、打点20、犠打16と過去最高ペースの数字を残している。

 バントのできる長距離ヒッターという売りで、2番レフトに定着し、規定打席にも到達している。


 ショートのポジション争いのライバルの湯川選手は、打率.275、ホームラン6本と今年の新人選手の野手の中では随一の数字を残しており、新人王候補に名前が上がっている。

 そしてセカンドのポジションを争うロイトン選手は.268、ホームラン5本、光村選手は.237、ホームラン3本となっている。


 長打力はライバルに見劣りするが、打率、足、守備では僕が優位に立っていると思う。

 とは言え、湯川選手、ロイトン選手、光村選手と明確な差別化は図れていないので、その日の先発ピッチャーとの相性や調子の良し悪しで出場機会が左右されてしまっている。


 レギュラーシーズンが再開し、最初のカードは首位、京阪ジャガーズとのアウェーでの三連戦だ。

 札幌ホワイトベアーズは京阪ジャガーズと3.0ゲーム差の3位につけており、もしこの三連戦で三連勝なんかしてしまった日には、ゲーム差無しの1位に躍り出る。(勝率の差ではあるが…)


 初戦、京阪ジャガーズは稲本投手を先発に立て、見事に3対1で勝利した。

 僕は7回から守備で出場して、1打数ノーヒットだったが、好守でチームに貢献した…と思う。多分。


 2試合目は須藤投手が先発し、7対0で快勝した。

(僕は出場機会がなかった…)


 まさかの2連勝だ。

 これはもしかしてもしかするかも。

 チームの雰囲気もとても良い。

 3戦目も勝てそうな気がする。


「今日の京阪ジャガーズの先発は、左の加藤か…」

 ロッカールームからトイレに向かおうとすると、監督室の前で大平監督の声が聞こえた。

 僕は廊下に背中を付け、その会話を盗み聞きした。

 

「そうですね。

 加藤に対して相性が良いのは…。セカンドはあれですね」

 麻生バッティングコーチの声だ。

 

「ああ、あれか…。

 まあ仕方ないか…。

 あれが打てばチームも勢いづくからな…。

 まあ両刃の剣ではあるが…」


 あれってなんだ?

 会話の文脈から察するに、誰かの事を言っているのだろう。

 両刃の剣ということは、光村選手か?

 確かに光村選手は長打力はあるが、確実性に乏しく、守備範囲も広くは無い。


 僕も加藤投手からはホームランを打つなど(407話)、相性は良いんだけどな…。

 今日もスタメン落ちか…。

 残念に思いながらロッカールームに戻った。


 試合前練習に先立っての全体ミーティングで、今日のスタメンが発表された。

「今日のスタメンを発表する。

 1番セカンド、高橋…」

「えっ、あっ、はっ、はいっ」

 

 完全に油断していた。

 今日のセカンドのスタメンは光村選手では無いのか?

 もしかして僕は首脳陣から、「あれ」呼ばわりされているのか?

 ていうか、何で僕が両刃の剣なんだ?


 打って良し、走って良し、守って良しの十徳ナイフのような選手だと思うが…。

(作者注:あくまでも自称です)


 まあその件はいずれ麻生バッティングコーチに、じっくり聞くとして、とりあえずスタメンは嬉しい。

 思い切り暴れてやろう。

 

 


 

 

 

 

 


 


 


  


 

 

 

 

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