第433話 グラゼニ?
「前も言ったが、久しぶりのスタメンだからと言って、暴れてやろうとか思うなよ」
僕が試合前練習のために、グラウンドに出ようとしたら、大平監督に声をかけられた。
「はっ、はい。もちろんです。
僕の役割は塁に出て、チャンスメークをすること。
そして守っては堅実な守備をすることです」
「分かっているなら良いが…。
お前の場合は何をしでかすかわからない危うさを秘めているからな…」
ヒドイ。
大平監督は僕の事をそんな風に見ていのか。
プラスに考えれば、何をしでかすかわからないということは、意外性の男ということか。
ちょっと格好いいかも。
今日のスタメンは次のとおり。
1 高橋(セカンド)
2 谷口(レフト)
3 道岡(サード)
4 ダンカン(ファースト)
5 下山(センター)
6 岡谷(ライト)
7 湯川(ショート)
8 武田(キャッチャー)
9 五香(ピッチャー)
今日の先発は、第1話から登場しているのに、今いち活躍の場を与えられない五香投手だ。
作者としても、二刀流の選手として出したものの、彼の扱いには困っているようだ。
行き当たりばったりに話を考えているから、そんな事になるんだ。
こんな奴に自分の未来を委ねていると思うと、深い溜息が出る。
さあ気を取りなおして、今日の試合に臨もう。
僕としてもこのままでは、年俸が下がってしまう。
6,000万円の年俸をもらっていても、半分は税金対策で別口座にして、一切手をつけないようにしているし、残りの半分は自動的に将来に向けた貯金としている。
すると1/4が残るが、そこから翔斗の学資保険とか将来住宅を買うための財形とかそういうものの支払いがあり、それを除くと、生活費になるのはその更に半分である。
つまり年俸の約1/8が生活費であり、その中から僕の小遣いを貰っている。
もっとも僕にはあまり物欲が無く、プロ野球の選手の中には、高級な時計をつけている方も多いが、僕は入団の時に当時の彼女に貰ったクォーツを今でも使っている。
(当時の彼女という言い方は語弊があるかな?
言い換えると、今の奥さんです)
かっての名選手の言葉で、「グラウンドには銭が落ちている」というのがある。
活躍すれば、活躍したなりの評価が貰えるというのはありがたいことかもしれない。
「一般社会ではそうはいかないんだぜ。評価基準が曖昧で嫌になる」
昨年の高校時代のチームメートとの忘年会で、会社員になった柳谷がそう言っていた。
そう考えると、プロの世界は結果が全てであり、それは公正な反面、厳しい世界でもある。
さあ今日も稼がせてもらおう。
そんな事を考えながら、僕は1回の表のバッターボックスに入った。
相変わらず京阪ジャガーズの応援は凄い。
大きな声援に圧倒される。
そして天邪鬼な僕は、それらはむしろ自分への声援と思うようにしているので、気分は悪くない。
ということで、加藤投手の初球。
思い切り引っ張った。
初球、ストライクゾーンに来たら、思い切りひっぱたいてやろうと狙っていたのだ。
手応え抜群。
やはり加藤投手とは、相性が良いようだ。
ファールにならなければ、飛距離は充分だろう。
一塁に到達した時、球場内に「あーあ」という声が響き、三塁塁審が腕を回しているのが目に入った。
球場内の約1割弱を占める、白の一団が大きく湧いている。
先頭打者ホームラン。
いきなり結果を出した。
とても気持ちが良い。
今季、第3号。
昨年は500打席以上でホームラン4本だったのに対し、今季はすでに3本目。
もしかしてパワーもついてきたのか?
将来、トリプルスリーも狙えちゃったりして。
(9年で通算ホームラン17本の選手が何をぬかすか。作者より)
そんな事を考えながら、ダイヤモンドを一周し、チームメートの祝福を受けてベンチに戻った。
「良い当たりだったな」
「はい、狙っていました」
ベンチに座り、隣に座っている岡谷選手と話していると、またもや大歓声とも悲鳴ともいえる声が、球場内を包んだ。
何だ何だ。
谷口が軽くガッツポーズをしながら、一塁を回るのが見えた。
まさかの二者連続ホームランだ。
あれ?
前にもこんな事があったような。
デジャブか?(作者注:第311話ですね)
あの時は確か、僕と谷口に続き、道岡選手もホームランを打ったような記憶がある。
ツーボール、ツーストライクからの5球目。
道岡選手の当たりは、センターに飛んだ。
一瞬、行ったかと思ったが、打球はセンターの中道選手のグラブに収まった。
結局、この回は2点どまりだったが、この試合に勝利すれば首位に立つ、札幌ホワイトベアーズにとっては幸先の良いスタートとなった。
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