第450話 僕はホームランバッターでは無い

 段々と意識が遠のいていく…。

 気がつくと、僕は布団に横たわっていた。

 

 「夢か…」

  僕はカーテンの隙間から、朝の光が差し込んできた薄暗い部屋で目を覚ました。

  上半身を起こし、辺りを見渡すと、見慣れた中学校の制服や、有名なプロ野球選手のポスターが目に入った。

  長い夢を見ていたようだ…。

 

  僕は寝ぼけ眼で、夢の内容を思いだそうとした。 高校で将来、大リーグに行くような投手と出会い、全国制覇。


  プロに入団し、高校時代から付き合っていた美人マネージャーと結婚。 そして可愛い息子の誕生。

 紆余曲折の末、レギュラー獲得。

  そしてオールスターでMVP。

 サイクルヒットを上回る長打4本。

 更には4番でスタメン出場…。

 

  とても楽しい夢だった。

 僕はカーテンを開けて、窓からの景色を眺めた。

  といっても街路樹や、道路が見えるだけの何の変哲もない、見慣れた景色が広がっている。

  僕は思った…。

 この夢が現実だったら、どれだけ良かったか…と。


…………………………………………………………

 

高橋「おい、これは何だ?」

作者「まあ、450話になりましたし、キリが良いかと…」

高橋「なあ一度、地獄の釜の底を見てくるか。

 以前、近況ノートでもこのネタを使ったよな。

 ついに本編でもやりやがったな」

作者「まあ、話も長くなってきたので、定期的にこういうのをやりたくなるんですよね。

 450話記念の特別企画ということで…」

高橋「バットで殴られたくなかったら、早く続きを書け」

作者「アイアイサー」


……………………………………………………………


 1回表は青村投手が、エースの貫禄を見せ、三者凡退に抑えた。

 1回裏、仙台ブルーリーブスのマウンドには松島投手が上がっている。

 リーグを代表する軟投派の投手(変な日本語)であり、ストレートは130km/h台であるが、スクリューボール、チェンジアップ、スライダーなど緩急をうまく使って、打者を打ち取る。

 今シーズンは更に投球術に磨きがかかり、ここまで6勝2敗と好調である。


 先頭バッターの湯川選手は初球に手を出して、セカンドゴロ。

 2番の谷口もワンストライクからの2球目を平凡なレフトフライ。

 3球でツーアウトになった。


 テンポ良くストライクゾーンに投げ込んでくるので、簡単に追い込まれるし、それを嫌がって手を出すと相手の思うツボである。


 そしてこのような嫌な雰囲気を変えてくれるのが、ベテランである。

 3番の道岡選手は、2球でツーストライクと追い込まれたが、そこから8球粘り、フォアボールを勝ち取った。


 ツーアウト一塁。

 こういう場面では、やはり一発がある打者が望ましい。

 もしここでホームランが出たら、一気に2点先制である。


 誰も僕にホームランなんて期待していないだろうな。

 そう思いながら、バッターボックスに入った。

 僕のこれまでのホームランは、ヒットを狙った打球がたまたま伸びて、スタンドまで到達したものである。

 つまり狙って、ホームランを打てるバッターでは無い。


 バッターボックスに入り、仙台ブルーリーブスの守備体形を見渡した。

 内野も外野も中間守備。

 つまりオーソドックスな守備体形だ。


 初球。

 内角へ食込むスライダー。

 見送ったが、ストライク。

 この球を見せられると、外角の球へ踏み込みづらくなる。


 2球目。

 外角へのスクリューボール。

 浮き上がって落ちる。

 松島投手の代名詞のような球だ。

 見送ったがストライク。

 簡単に追い込まれた。


 3球目。

 内角膝下へのスライダー。

 これは見極めた。

 ボール。


 4球目。

 次は外角か。

 そう思っていたら、内角高めへのストレート。

 僕ははっきりと見極め、微動だにせず、見送った。


 すみません、嘘です。

 手が出ませんでした。


 判定はボール。

 球審は少し迷ったようだったが、手は上がらなかった。

 助かった…。


 これでツーボール、ツーストライク。

 次こそ、外角か。

 だが5球目。

 今度も内角へのスライダー。

 何とかバットに当てた。

 ファール。


 6球目。

 外角へのチェンジアップ。

 これもカットし、ファール。


 7球目。

 内角膝下へのストレート。

 これもカット。

 ネバネバネバネバ。


 8回目。

 外角へのスクリューボール。

 これもカット。

 松島投手は球種が豊富だが、一方でいわゆる決め球がない。

 だから僕のような打者は粘りやすいのだ。


 9球目。

 内角へのスライダー。

 これもカーット。

 カウントはツーボール、ツーストライクのまま。


 そして10球目。

 外角へのスクリューボールをライト線方向に弾き返した。

 打球は、ライト前に落ちた。

 僕は一塁上で、手を叩いた。


 道岡選手は三塁まで進んでいる。

 ツーアウトながら、一、三塁のチャンスだ。

 

 


 

 

 

 

  

 

 

 

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