第449話 プロ入り初の…
「2番レフト、谷口、
3番サード、道岡」
さあ次は4番だ。
下山選手か、ロイトン選手かな。
「4番ショート、高橋」
ほう、そう来たか。
ん?、今何て言った?
「たかはし」って言わなかったか?
「5番センター、下山、
6番ファースト、ロイトン、
7番ライト、岡谷、
8番キャッチャー、武田、
9番ピッチャー、青村。
以上だ。今日も勝つぞ」
「おうっ」
スタメン発表後、それぞれ練習に向かうため、散り散りになっていった。
あれ?
誰も突っ込まない。
僕の聞き間違いか?
そりゃ、そうだよな。
僕が4番なんてあり得ない。
「どうした?、高橋。
バッティング練習に早く行け」
麻生バッティングコーチに声をかけられた。
「あのー」
「何だ?」
「今日のスタメン何ですけど」
「おうっ。ホームラン、頼むぞ」
「僕が4番と聞こえたんですが、そんなわけ無いですよね?」
「何でだ。順当だろう。
チーム1の打率を残しているし、得点圏打率も高い。
何よりも相手先発の松島を得意にしている。
お前以外に適任者がいるか?」
そりゃ、いっぱいいるだろう。
道岡選手、下山選手、ロイトン選手、谷口、湯川選手。
僕よりも長打力が優れた選手は、他にもいる。
「まあ、打順のことはあまり意識するな。
お前は4番目のバッターだと思えば良い。
いつも通り粘って、好球必打。
無理に大きいのを狙わなくて良い。
つなぎの4番で良い」
さっきホームラン頼むぞ、と言わなかったか?
「でも良いんでしょうか?
僕が4番で…」
「何かまずいことがあるか?」
「相手チームにとって、あまりプレッシャーが無いかと…」
「そんな事はないだろう。
もしランナーがいれば、ランナーを進めるバッティングも、ランナーを返すバッティングもできる。
ランナーがいなくても出塁すれば、嫌なランナーになる。
そして長打力もゼロではない。
俺は結構適任だと思うけどな」
そこまで言われると、そんな気もしてくる。
「わかりました。
ご期待に添えるよう、全力を尽くします」
「そうだ、その意気だ。頼んだぞ」
よしやってやる。
麻生コーチと話して、気が楽になった。
要するにいつも通りやれば良いということだな。
振り返ると高校時代も、チームメイトにゴリラ(名は平井)がいたので、僕は一度も4番を打ったことはなかった。
中学時代も1番か3番がメインだったので、公式戦で4番を打った記憶は無い。
まさかプロで人生初(記憶にある限りでは…)の4番に座る日が来るとは…。
試合前練習が終わり、球場内で両チームのスタメン発表があった。
僕は普段は、この時はロッカールームにいるのだが、今日はベンチに座っている。
さて、ファンはどんな反応を示すだろうか?
「4番、ショート、高橋。背番号58」
普段と同じように、大きな声援が起こり、僕の応援歌、「蒼き旋風、高橋隆介」が流れた。
ファンの反応を見る限り、少しざわついたが、ブーイングも起きていないようだ。
ちょっと安心した。
そう言えば、折角プロ初の4番を打つのだから、結衣を招待すれば良かったな、そう思いながら、何気なく内野の家族が良く利用する席を見た。
すると翔斗を抱っこした、結衣がいた。
何でいるのだ?
「奥さん来ているのか?」
僕がポカーンとしていると、石山一軍マネージャーに声をかけられた。
「はいっ。今日は来るはずでは無かったのですが…」
「ああ、大平監督に言われて俺が連絡しておいた。
一生に一度かもしれないからってな」
そういうことか。
そう言えば、静岡オーシャンズ時代もこんな事があったな。(第42話)
あれはプロ入り3年目の、プロ初スタメンの時だったっけ。
あれから約6年か…。
最近は試合に出ることが当たり前になっており、プロで試合に出られることの喜びを忘れつつあった。
僕はドラフト7位で入団し、最初の数年は、毎年シーズンオフにはクビになることを恐れていた。
そう考えると、こうしてプロで4番でスタメン出場する日が来るとは…。
僕は改めてそんな感慨に耽った…。
すると急に頭がボーっとしてきた…。
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