第405話 ヒーローインタビュー13
「放送席、放送席。
今日のヒーローをお呼びします。
まずは走守にわたって大活躍の高橋隆介選手です」
女性アナウンサーの声が球場内に響いた。
ワー。
球場内から大きな歓声が湧いた。
僕は勢いよくベンチを飛び出し、色とりどりの光に彩られた花道を通って、お立ちに向かった。
しかし攻守に渡って活躍という言葉はよく聞くが、走守に渡って活躍という言葉はあまり聞かない。
変なの、と思いながら拍手とりゅーすけコールに応えながら、お立ち台に上がった。
やっぱり良いな、ホーム球場でのヒーローインタビューは。
お立ちに上がって見る光景は、いつも最高だ。
今季は開幕から試合に出る機会が少なく、モヤモヤした気持ちが溜まっていたが、今日で少し晴れる気がする。
「次に投のヒーローをご紹介します。
見事、来日2勝目を挙げたバーリン投手です」
顎髭を蓄え、190cmを越える身長のバーリン投手がベンチを飛び出し、僕と同じく光の花道を通って、お立ち台に上がってきた。
世間一般では僕の身長は低い方では無いのだが、プロ野球選手の中では低い方になる。
特にバーリン投手と並ぶと僕の小ささが際立ってしまう。
ちょっと哀しい。
「まずは走守のヒーロー。
高橋隆介選手にお話を伺います。
1回裏、フォアボールで出塁して、2つの盗塁を決めました。
まずは最初のセカンドスチール。
あれはサインプレーだったのでしょうか?」
「はい、そうです」
「サインを見た時はどんな事を思いましたか?」
「はい、僕の見せ場がやってきたぜって、思いました」
「仙台ブルーリーブスバッテリーも警戒している中、難しい盗塁だったと思いますが、その辺はいかがですか?」
「はい、こういう場面で決めてこそ、スピードスターの面目躍如ですので、失敗することは全く考えていませんでした」
「スピードスターですか…
(笑)
次にまさかのサードスチール。
あれもサインプレーでしたか?」
女性アナウンサーがスピードスターという単語に対し、やや含み笑いしているように見えた…。
「はい、そうです」
「サインを見た時はどう思いましたか?」
「はい、まだ初回ですし、何を考えているんだ、と思いました。
バッターも道岡さんでしたし」
「失敗は頭を掠めなかったのですか?」
「まあ、失敗してもベンチのせい、成功すれば僕のお陰だと開き直っていました」
「成功した瞬間はどう思いましたか?」
「はい、さすが俺、と思いました」
「さすが球界屈指のスピードスターですね」
女性アナウンサーの物言いにやや引っかかりを感じたが、まあいいや。
「そして9回表の守備も見事でした。
あの場面はどのような事を感じていましたか?」
「はい、僕の方へ飛んでこいと願っていました」
「深町選手の鋭い打球が飛んできた時はどう思いましたか?」
「はい、無我夢中でしたが、うまく体が反応してくれました」
「ありがとうございました。
走守にわたって大活躍の自称スピードスター、蒼き旋風、高橋隆介選手でした。
次に来日2勝目を挙げた、バーリン投手にお話を伺います」
ん?、今何か変な単語が入っていなかったか?
まあいいや、細かいことは気にしない。
僕はバーリン投手と場所を入れ替わった。
バーリン投手の傍らには通訳の山手さんがついている。
「それではバーリン投手にお話を伺います。5回無失点。チームを勝利に導く素晴らしい投球でした」
山手さんが訳し、バーリン投手に伝えた。
それに対し、バーリン投手が何かを話している。
「ペラペラペラ、ペラペラペーラ、ペラ、ペラペーラ、ペラペラペラペラペラ…」
長げぇよ。
山手さんが訳した。
「はい、ありがとうございます。ピンチもありましたが、粘りました」
え、それだけ?
もっと色々言っていたように聞こえたが…。
「今日の投球を振り返って、どんなところが良かったですか?」
また山手さんが訳し、バーリン選手が答えた。
「ペラペラペラペラ、ペラペラペラ、ペラペーラペラペラ、ペラペラ、ペラペラペラ…」
だから長いって…。
そしてそれも山手さんが訳す。
「端的に言うと、うまくバッターのタイミングを外すことができました」
これまた随分端折ったな。
「これで来日、2連勝。
良いスタートを切れたと思いますが、その点はいかがですか?」
「ペラペーラ、ペラペラ、ペラペラペラペラペラペラ、ペラペラペラ…」
ふぁーあ。
つい欠伸してしまった。
「そうですね。これからも頑張ります」
山手さんが訳した。
それだけかい。
スタンドからも笑いが漏れている。
「えーと、高橋選手、バーリン投手、ファンの皆様に一言ずつお願いします」
「はい、明日からも活躍できるように頑張ります」
「ペラペラペラペラ、ペラペラ…」
もういいよ。
終わろう。
ということで今回のヒーローインタビューもグダグダになってしまった。
今回は決して僕のせいではない。
さあ、明日からまた頑張ろう。
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