第406話 臥薪嘗胆と薫風の5月
仙台ブルーリーブスとの2戦目は代走、3戦目は守備固めの出場にとどまった。
初戦に今シーズン初のヒーローインタビューを受けたが、立場は変わらない。
臥薪嘗胆の日々が続く。
ちなみに臥薪嘗胆とは、昔の中国で…(以下、省略)
仙台ブルーリーブスとの三連戦は2勝1敗と勝ち越したが、続くアウェーでの京阪ジャガーズ戦では1勝2敗と今シーズン初めて負け越してしまった。
これでシーリーグの各チームとの対戦が一廻りし、札幌ホワイトベアーズは10勝5敗と京阪ジャガーズとわずか0.5ゲーム差の2位につけている。
僕の成績は、チーム15試合中13試合に出場し、7打数1安打、打率.143、盗塁2。
これに対し、湯川選手は全15試合に出場して、打率.290、ホームラン3本と好成績を維持していた。
そして同じくポジションのライバルのロイトン選手は打率.308、ホームラン2本とやはり良い数字を残している。
ちなみに谷口は日々打順を変えながらも、.250、ホームラン3本。
僕としては来る出番に向けて、準備を怠らないことが肝要だ。
ポジションは与えられるものではなくて、奪い取るもの。
チャンスが来たら掴み取ってやる。
だがそういう意識を持ち続けるのも、なかなか難しい。
もちろんチームにとって、控え選手も重要だ。
だがレギュラーを取りたいことに変わりはない。
頭ではわかってはいても、正直、辛い。
今は試練の時だ。
僕はそのように自分に言い聞かせることで、モチベーションを何とか維持している。
早いもので、4月も終わりに近づき、ゴールデンウィークを迎えた。
僕はこの季節が一番好きかもしれない。
薫風香る5月。
晴れ渡った日が多く、暑くも寒くもない気持ちの良い日が多い。
今日の京阪ジャガーズ戦は、久しぶりにスタメンを告げられた。
しかも久々のショートだ。
開幕から出ずっぱりの湯川選手を休ませるという意図があるのだろう。
湯川選手は最近調子を落としており、ここ5試合は19打数2安打、シーズン打率も.270まで落としていた。
新人ということを考えると、素晴らしい成績であるが、最近は苦手なコースを執拗に責められている。
「ということで、消去法でお前を1番ショートで使う。頑張りたまえ」
大平監督に声をかけられた。
消去法であろうと、小籠包であろうとスタメン出場は嬉しい。
しかも昨シーズン慣れ親しんだ、1番ショートということだ。よし、暴れてやる。
「一応言っておくが、暴れてやろうとか気負うなよ。
お前の役割は何だ?」
「はい、塁に出て、チャンスメークすることです」
「そのとおり。
最近淡白になっている湯川に、1番打者とはこうあるべきだ、という手本を見せてくれ」
「はい、任せといてください」
とは言ったものの、アピールするには大暴れしたい。
「高橋、念のために言っておくが、とは言ったものの大暴れしたいとか思うなよ。
繰り返すが、お前の役割は?」
「はい、チャンスメークです」
「よしわかればよろしい。頼んだぞ」
ポンと肩を叩いて、大平監督は去っていった。
しかし何で僕の考えていることがこんなにピンポイントでわかるんだ?
僕は廊下を歩く、大平監督の後ろ姿を見送りながら、首を捻った。
「お前の考えることなんて、お見通しだよ」
大平監督はふと振り向くとそう言い残して、廊下を曲がって行った。
何で僕の考えていることがこんなにわかるんだ。
怖い、怖すぎるよ。
でも確かに湯川選手はそれなりの打率を残しており、ホームランも3本打っているが、出塁率は決して高くはない。
長打力のある1番バッターは嵌まれば、先制パンチを食らわすことができるが、簡単に初級を打ち上げるなどの淡白な打撃をしては、勢いを消してしまうこともある。
やはり出塁率が高いバッターこそ、一番に向いているかもしれない。
今日のスタメンは以下の通り。
1 高橋(ショート)
2 谷口(レフト)
3 道岡(サード)
4 ダンカン(ファースト)
5 下山(センター)
6 ロイトン(セカンド)
7 西野(ライト)
8 上杉(キャッチャー)
9 持田(ピッチャー)
今日は昨シーズンのように谷口との1、2番コンビでチャンスメークしてやる。
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