第407話 チャンスメークなるか?

 京阪ジャガーズの先発は左腕の加藤投手。

 これまでの対戦成績は、10打数4安打とやや得意にしており、その点も今日のスタメン起用の要因かもしれない。


 今日の試合はアウェーとあって、スタンドは京阪ジャガーズファンで埋め尽くされている。

 外野にわずかに白いエリアがあるが、あまり目立たない。


 でも罵声を浴びながら、プレーするのも、僕は嫌いじゃない。

 以前も述べたが、僕は天の邪鬼であり、僕のプレーによって球場内が京阪ジャガーズファンのため息を包まれるのはちょっと快感である。


 初回、バッターボックスに入った。

「アホの扇風機、転ぶなよ」とか

「湯川が入って、すっかり影が薄くなったな、おい」とか

「引っ込め、二軍の球場はここじゃないぞ」とか、雑音が心地よく次々に耳に入る。

 ところでアホの扇風機とは、蒼き旋風を文字ったのだろうか。ゴロが悪い。


 さて、この回の僕のミッションは、なるべく球数を投げさせて、今日の加藤投手の調子を図ること。

 そしてあわよくば塁に出て、チャンスメークすること。

 そして先取点のホームを踏むことができればなお良い。


 だから良く球を見ていきたい。

 だが初球からど真ん中のストレートが来たら、話は別だ。

 僕は加藤投手の初球のストレートを思い切り引っ張った。

 真ん中低めへ狙ったのが、甘く入ったのか。

 打球はレフト方向に飛んでいる。

 

 シーズンで一度か二度あるかないかの素晴らしい当たりだ。

 僕は打球の行方を見守りながら、走り出した。

 ホームランを確信したとしても、決して走ることを緩めてはいけない。

 そういうところもベンチは見ている。


 そして一塁ベースを回る時、審判が大きく腕を回しているのが目に入った。

 今季第一号は先頭打者ホームランだ。


 札幌ホワイトベアーズファンの歓声と、京阪ジャガーズファンの罵声や溜息を背中に心地よく感じながら、僕はホームインした。

 

「ナイスホームラン」

 チームメートとハイタッチし、ベンチに戻ると、湯川が握手を求めてきた。

「おう、ありがとう」

 湯川選手とはがっちり握手した。

 スタメン落ちして、悔しさはあるだろうが、それでもこうやって祝福してくれる。

 手強くも可愛い後輩ではある。

 

「誰がホームランを打てと言った」

 大平監督の前を通りすぎると声をかけられた。

 腕組みしながら、笑みを浮かべている。

「でも打つなとも言われませんでしたし、僕にとってはヒットの延長がホームランです」

「なるほど。口も達者になってきたな。まあ、良い。

 結果オーライだ。

 だが次は塁に出ろよ」

 ホームランを打っても褒められない僕っていったい…。

 

 ともあれ嬉しい今シーズン第一号。

 単に粘る姿勢を見せるだけでは、初球からバンバン、ストライクゾーンに投げられて追い込まれてしまう。

 

 このように甘い球を投げたら、一発で仕留めることができると、相手も僕に対し、初球から慎重にならざるを得ないので、プレッシャーもかかる。

 そういう意味でも大きなホームランだったと思う。


 この回は谷口、道岡選手、ダンカン選手と後続は凡退し、1点止まりであった。

 僕はチェンジになると、グラブを掴み、ショートの守備位置に着いた。


 京阪ジャガーズファンからの罵声の中でも、札幌ホワイトベアーズファンからのりゅーすけコールは聞こえた。

 僕は帽子を取って、その音がした方向に礼をした。

 

 次は守備だ。

 というよりも守備が最大のアピールポイントだ。

 基本に忠実に、でもチャレンジする時はする。

 堅実かつ大胆なプレーが僕の持ち味だ。


 そして1回裏、持田投手は簡単にツーアウトをとったが、3番のジャクソン選手にフォアボールを与え、続く下條選手にツーランホームランを打たれてしまった。

 おーい。

 折角の僕のホームランが…。


 そしてこの試合は点の取り合いになり、2回裏に早くも2打席目が回ってきた。

 2対2の同点とし、なおツーアウトランナー一、三塁のチャンス。


 京阪ジャガーズのマウンドは引き続き、加藤投手。

 ここで打ったら凄いかもしれない。

 

 

 

 

 



 

  

 


 

 


 

 

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