第408話 今度こそチャンスメーク
僕はバッターボックスに入る前に頭の整理をした。
タイムリーヒットを打つに越したことはないが、粘って谷口に繋ぐのも悪くない。
加藤投手は先程ホームランを打たれているから、慎重に投げてくるだろう。
もともとコントロールの良い投手なので、さっきの打席と異なり、簡単にストライクゾーンには投げてこない。
つまりストライクゾーンとボールゾーンのギリギリを攻めてくるに違いない。
とは言え、裏を書いて初球からストライクを取りに来る可能性も捨てきれない。
だから初球からでも甘い球が来たら、仕留めてやろう。
そう頭の中を整理して、バッターボックスに入った。
初球。
大外からストライクゾーンギリギリに決めてくるスライダー。
かなり遠く見えたので、見送ったが、判定はストライク。
敵ながら惚れ惚れするような球だ。
これは外角に的を絞っていない限り打てないだろう。
2球目。
フワッとした軌道のパワーカーブ。
完全にタイミングを外され、見逃したが、これまた外角ギリギリに決まった。
うーん、簡単に追い込まれた。
次はチェンジアップかスライダーか。
ストレートもありうる。
もっとも追い込まれてからが僕の真骨頂。
どんな球種が来ても対応する備えをしている。
3球目。
内角高目へのストレート。
やや仰け反って避けた。
もちろん判定はボール。
4球目。
次はセオリーなら外角だろう。
さっきの球で内角に意識が行き、外角は遠く見える。
そして投球は予想どおり外角低目へのチェンジアップ。
何とかバットに当てた。
5球目。
また内角高目か、外角へのボール気味の球を予想した。
投球は予想に反して、内角低目へのストレート。
これもファールで逃げた。
カウントは変わらずワンボール、ツーストライク。
そして6球目。
ボールゾーンから外角へ入ってくるスライダー。
見送った。
際どいコースだったが、判定はボール。
助かった。
正直、手がでなかった。
とは言え、カウントはツーボール、ツーストライクの平衡カウントにした。
7球目。
真ん中へのスライダー。
打ちに行ったが、予想より曲がりが大きい。
アッ、と思ったときにはボールは肘を掠めていた。
デッドボール。
肘当てをしていたので、衝撃は感じたが、痛くはない。
僕はダッシュで一塁に向かった。
球場内から拍手が上がった。
京阪ジャガーズのファンも拍手してくれているようだ。
京阪ジャガーズファンは熱狂的なファンも多いが温かい面もあり、良いプレーには敵味方関係なく拍手するケースがある。
このデッドボールは僕よりも加藤投手の方が痛いだろう。
ツーアウトながら満塁となり、バッターは今シーズン好調で、勝負強さが増した谷口だ。
谷口はゆっくりとバッターボックスに入った。
昨シーズン、二桁の12本のホームランを打ち、今季も開幕からほぼ全試合にスタメン出場するなど、プロとしての風格も備わってきた。
期待の長距離砲と期待されてのプロ入り。
それから回り道をしたが、9年目の今季、ようやく自分のスタンスを築きつつある。
バントのできる長距離砲。
それが今の谷口のセールスポイントだ。
左腕対右打者。
セオリーではバッター有利である。
谷口は打席に入り、バットを構え鋭い眼光をしている。
もっとも加藤投手もチームの2連覇に貢献した、百戦錬磨の投手。
簡単には打たせないだろう。
初球。
外角からストライクゾーンギリギリに決まるスライダー。
僕の時と同じだ。
谷口は右方向に打ち返したが、ファール。
わかっていても打てないのが、加藤投手のスライダーだ。
2球目。
内角低目へのチェンジアップ。
だが甘く入った。
今の谷口は甘い球を見逃さない。
すくい上げた打球はレフトに飛んでいる。
ジャクソン選手は懸命に追っている。
そしてツーアウトのため、3人のランナーは打った瞬間スタートを切っている。
ジャクソン選手は背走しながら、懸命にグラブを出した。
だが打球はグラブの先を掠めて、フィールドに落ちた。
三塁ランナー、二塁ランナーはゆっくりとホームインし、僕も三塁を蹴って、ホームに向かった。
だが送球は返って来ない。
悠々セーフだ。
谷口はセカンドベース上で、小さくガッツポーズしている。
走者一掃のタイムリーツーベースだ。
これで5対2。
まだ回は序盤の2回表だが、試合は大きく動いた。
加藤投手は次の道岡選手は三振に打ち取り、表情を変えずにマウンドを降りた。
さすがベテラン。
気落ちした表情を見せない。
だが試合は中々落ち着かない。
持田投手は2回裏にも2点を失い、点差は5対4と1点差に縮められた。
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