第513話 ヒーローインタビュー17

 「さあ、それでは今日のヒーローをお呼びします。

 8回表、先制の2ランホームランを放った、札幌ホワイトベアーズの高橋隆介選手です」


 女性アナウンサーの発声を受け、僕はベンチを飛びだした。

 試合開始時点では超満員だった球場内は、今や2割くらいしか埋まっていない。

 それでも完全アウェーの中、これだけの方に、札幌ホワイトベアーズを応援して頂いたと思うとありがたい。

 

「それでは皆様、お待たせしました。

 札幌ホワイトベアーズ、高橋隆介選手にお話を伺います。

 ナイスホームランでした」

「はい、ありがとうございます」

 球場内に残っているファンから、大きな拍手が上がった。

 

「あの場面、どんな気持ちで、打席に立ちましたか?」

「はい、ファンの皆様のためにも、絶対打ってやろうと気合が入っていました」

 想定問答どおりに答えた。

 さっきよりも大きな拍手が上がった。

 「いいぞ、りゅーすけー」という声も聞こえた。

 

「どんなボールに的を絞っていましたか」

 「はい、金山投手は素晴らしい投手なので、カーブに的を絞っていました」

 これも想定問答どおり。

 

「両チームとも先発選手が踏ん張り、なかなか点を取れない中で均衡を破るホームラン。

 打った瞬間の手応えはいかがでしたか?」

「はい、良い手応えでしたので、スタンドに入ることを祈っていました」

 これも想定問答にあった。

 

「京阪ジャガーズは昨シーズン最終試合まで、優勝を争ったチームです。

 特別な思いがあったのではないですか?」

「はい、でも普段通りの野球をやろうと心がけていました」

 凄いぞ。

 ここまで想定問答で網羅されている。

 

「今シーズンは始まったばかりですが、今後の抱負を教えてください」

 この質問も想定問答にあった。

 想定問答では確か「はい、これからも皆様の期待に添えるように頑張ります」となっていた。

 でもそれだけでは面白くないので、少し自分なりのアレンジを入れて答えた。


「はい、これからも皆様の期待に添えるように頑張ります。

 そして、早ければ今シーズンオフにでも、大リーグに挑戦したいので、良い成績を残せるように頑張ります」

 球場内から、えーっという声が上がった。

 何か変なことを言ったか?

(断っておきますが、作者も驚いています。 いきなり何を言いだすんでしょうか?)


「あ、あの今、何とおっしゃいましたか?」

「はい、これからも皆様の期待に添えるように頑張ります、と言いました」

「いえ、その後です」

「その後ですか?、早ければ今シーズンオフにでも、大リーグに挑戦したいので、良い成績を残せるように頑張ります、と言いました」

 球場内がざわめいているのを感じる。


「そ、それは正気でしょうか?」

「はい、もちろん正気です」

 失礼なアナウンサーだな、と思いつつもそう答えた。

 

「えーと、あの、その…。

 それは球団と既に話されているのでしょうか?」

「いえ、まだ話していません」

 インタビュアーの女性アナウンサーは狼狽しているようだ。

 何でだろう。

 

「そ、それは冗談ですよね?」

「いえ、本気ですけど」

 女性アナウンサーはキョロキョロと誰かに助けを求めるような仕草をしている。

 何かあったのか?

 

「僕、何か変なことを言いましたか?」

「いえ、あの、その、あまりに突然だったので驚いているというか…。

 何かきっかけとかあったのでしょうか?」

「はい、フロリダで自主トレしたり、高校時代のチームメートの山崎が大リーグで活躍しているのを見て、僕も挑戦したいと思うようになりました」

 

「そ、そうですか。

 最後にファンの皆様に一言お願いします」

 狼狽しつつも、気を取り直したようにその女性アナウンサーは締めにかかった。


 えーと、この場合なんて言うんだっけ。

 忘れちゃった。


「はい、えーと」

 僕はユニフォームの後ろポケットから、想定問答の紙を取り出して見た。

「明日からも試合が続きますが、チームの勝利に…、えーとこれ何と読むのかな」

 「こうけんです」女性アナウンサーが小声で言った。


「…貢献できるように頑張ります」

「そ、そうですか。

 き、今日のヒーローの高橋隆介選手でした。

 ありがとうございました」

 球場内から拍手が上がった。


 僕は球場内に残っている札幌ホワイトベアーズファンの声援に応えながら、ベンチに戻った。

 すると球団職員の美園さんが怖い顔をして、待ち構えていた。

 

「あ、お疲れ様です」

 僕は軽く声をかけた。

「お疲れ様です、じゃないだろ。

 何ださっきのヒーローインタビューは?」

 

「え、何がですか?」

「大リーグ挑戦の事だよ」

「あー、将来的な希望を言っただけですよ」

「でもお前、今シーズンオフって言ったよな」

「はい、でもあくまでも希望ですよ」

「いくら希望でもこんな場で言う奴があるか」

 何をそんなに怒っているのだろう。


「まあ、いい。

 多分明日、試合前に球団から呼び出しがあるから、いつでも連絡を取れるようにしておけ」

「はぁ」

 希望を言っただけなのにな。

 僕は首を傾げながら、帰り支度をして、チームバスに乗り込んだ。

 

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