第465話 次こそは…

 この回は岡谷選手が凡退後、上杉選手がヒットで出塁したが、無得点に終わった。

 次の回は僕からの打順である。

 今日の横田投手の出来では、打つ球を絞らないと打ち返すのは困難だ。

 5回裏終了後のチームポラリスのパフォーマンスを尻目に、そんな事を考えていた。


 ふと見ると、九条選手がいない。

 どこに行ったのかな。

 僕はトイレに行きがてら、ベンチ裏に行くと、どこからかブンブンとバットを振る音がきこえた。


 その音の方に行ってみると、九条選手が鬼気迫る表情でバットを振っていた。

 どんな選手でも素振りをする時は真剣な顔をするが、九条選手のそれは今まで見たことがないくらい、険しい顔つきをしていた。

 僕は気づかれないようにそっとベンチに戻った。


 6回表。

 これまで無失点に抑えていた、稲本投手が、川崎ライツ打線につかまり、2点を先制された。

 ヒットとフォアボールでワンアウト満塁とされ、僕のフロリダ自主トレ仲間の与田選手に、センターにタイムリーヒットを打たれてしまったのだ。


 次の打席、何としても塁に出ないと…。

 チェンジになり、僕はベンチに戻りながらそう思った。


 6回裏、川崎ライツのマウンド上は引き続き、横田投手が上がっている。

 投球練習を見ていると、まだまだ球威は落ちていない。

 ストレートをコースに決められると、とても打てないだろう。

 僕は恐らく打席の中で、一球は来るであろう、チェンジアップに的を絞ることにした。


 しかし川崎ライツバッテリーは、人の心が読めるのだろうか…。

 僕の目論見を見透かしたかのように、3球全てストレート。

 ノーボール、ツーストライクからの3球目はコースはど真ん中であったが、手が出なかった。

 

 これで3打席連続で見逃しの三振。

 一番打者としてはちょっとやばい。

 同じ凡退でも、内野に転がせば内野安打やエラーで塁に出る可能性はあるが、見逃しの三振ではノーチャンスだ。

 

「ドンマイドンマイ、次はよろしくお願いします」

 九条選手の大声が、僕をより一層情け無くさせる。

 クソッ、次こそは…。


 この回は道岡選手のソロホームランで1点を返したが、2対1のビハインド。

 僕は悔しい気持ちを抑えながら、ショートの守備位置に向かった。


 7回表は高卒7年目右腕の持田投手がマウンドに上がった。

 1点ビハインドの場面ではあるが、若手投手にとってはアピールのチャンスである。

 こういう負けている試合で、実績を積み重ねることによって、やがて同点や勝っている場面でも登板できるようになるのだろう。


 持田投手はワンアウトから、ツーベースヒットを打たれたが、ショートの好守備にも助けられて、無失点で切り抜けた。

 ベンチに戻りながら、バックスクリーンの大型ビジョンに映し出されている、さっきのリプレー映像を見た。


 ツーアウト二塁からの、三遊間を抜けようかという当たりを、回り込んで捕球し、体勢を崩しながらも、一塁にストライク送球。

 ツーアウトだったので、抜けたら間違いなく、1点が入っていただろう。

 我ながら素晴らしいプレーだった、と軽く自画自賛してみた。

 

「高橋選手、ナイスプレー」

 ベンチでは九条選手が大きな声で迎えてくれた。

 悪い気はしない。

 

 7回裏も川崎ライツのマウンドには、横田投手が上がっている。

 この回は5番の下山選手からの打順だったが、わずか6球でチェンジになってしまった。

 序盤は力で押し、中盤以降は打たせて取るピッチング。

 札幌ホワイトベアーズ打線はその術中に嵌っている。


 次の回は8番からなので、僕に打順が回る。

 そろそろ1本出さないと、明日のスタメンが危なくなるかもしれない。

 僕はそんな事を考えながら、8回表の守備に向かった。

 

 

 


 

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