第464話 育成出身選手の初昇格
京阪ジャガーズとの三連戦に勝ち越し、同率首位に並んだが、その後の岡山ハイパーズ三連戦に負け越し、あっさりと2位に転落した。
それでもたった数日でも首位に並んだということは、札幌ホワイトベアーズナインにとっては大きな自信になったのも、また確かであった。
そしてシーズンも終盤、9月になった。
現時点で首位の京阪ジャガーズとは、1.5ゲーム差の2位。
一度は並んだものの、札幌ホワイトベアーズが連勝すると、京阪ジャガーズも連勝する、といった具合になっている。
今日からはホームでの最下位の川崎ライツ戦。
ここで取りこぼすと、京阪ジャガーズとの差が更に拡がってしまう。
悪くても2勝1敗、できれば3連勝したいところだ。
今日の試合前ミーティングで、光村選手に替わり、プロ入り初めて一軍昇格を果たした選手の紹介と、挨拶があった。
その選手の名前は九条選手と言い、年齢は26歳である。
育成ドラフト5位で指名されて入団した、3年目の選手であり、6月末に支配下登録され、2軍で活躍し、今回、初めて一軍昇格を果たしたのだ。
大学卒業後、独立リーグを経て入団した選手であり、俊足が武器とのことだ。
また球界でも希少な両打ち、いわゆるスイッチヒッターである。
ポジションは内野も外野も一通り守れるということだ。
札幌ホワイトベアーズの俊足枠は、ご存知球界を代表するスピードスターの他、外野手の西野選手、野中選手、水木選手、岡谷選手と揃っているが、ここに九条選手も加わってくる。
「今日、一軍に昇格した九条です。
年齢的にも後が無いと思っています。
大暴れしますので、是非使って下さい。
よろしくお願いします」
九条選手は身長は公称167cmと小柄であるが、太ももが太く、筋肉質でまさに短距離走の選手と見紛えるような体型をしていた。
2軍で揉まれたせいか、顔も日焼けしており、目つきは鋭くギラギラした印象を受けた。
「これまでうちのチームでは見たことのないタイプだな」
谷口が僕に囁いた。
確かにここまで闘志を表に出すような選手は、札幌ホワイトベアーズにはいなかった。
試合前のノックでも誰よりも声を張り上げ、気合を見せていた。
もしかしたら、京阪ジャガーズを追いかける上での起爆剤として、昇格させたのかもしれない。
ちなみに今日のスタメンは次の通り。
1 高橋(ショート)
2 湯川(セカンド)
3 道岡(サード)
4 ダンカン(ファースト)
5 下山(センター)
6 谷口(レフト)
7 岡谷(ライト)
8 上杉(キャッチャー)
9 稲本(ピッチャー)
シーズン序盤は湯川選手がショートで、僕がセカンドを守ることがが多かったが、最近は入れ替えることが多くなっている。
僕としてもショートが1番好きなので、死守したいと思う。
ちなみに九条選手はベンチスタートである。
川崎ライツの先発は、左のエース、横田投手。
2年前に新人王獲得しており、今シーズンも既に二桁の10勝を挙げており、チームが最下位の中で1人、気を吐いている。
ストレートが武器の本格派であり、ツーシーム、スプリット、チェンジアップも操る、とても厄介な投手である。
試合が始まり、稲本投手は川崎ライツ打線を三者凡退に抑えた。
九条選手はその間、ずっと声を張り上げていた。
ショートの守備位置にいても、ひっきりなしに九条選手の声が聞こえる。
1回裏、先頭バッターとして打席に入ると、やはり九条選手の声が聞こえる。
そんなに最初から声を出していると、後から息切れするぞ、そんな風に思った。
この打席はワンボール、ツーストライクからの4球目、外角低目へのチェンジアップを見逃して三振してしまった。
言い訳するようだが、素晴らしい球だった。
コースといい、高さといい、ここに決められれば、恐らくどんな右打者でも打つことは困難だろう。
そして湯川選手、道岡選手も凡退し、この回は三者凡退に終わった。
試合は両投手の気合の入った投球により、投手戦となり、両軍無得点のまま早くも5回裏を迎えた。
この回は6番の谷口からの攻撃である。
「おい、谷口。
絶対塁に出ろよ」
僕は谷口に声をかけた。
谷口は無言で、左手を挙げ、バッターボックスに向かった。
谷口は今シーズンこれまで規定打席に到達しており、打率も.258と上がってきている。
ホームランも15本とチームでも道岡選手の14本を上回り、ダンカン選手の22本に次ぐ、2位に付けている。
その谷口であったが、横田投手の前に三振に倒れ、スゴスゴとベンチに戻ってきた。
「なかなか球威が落ちないな。
今シーズン、1番の出来かもしれんぞ」
谷口が僕の横に座り、話かけてきた。
「確かにストレートも走っているし、変化球も良く切れている。
厄介ピッチャーだな」
僕もここまで2打数2三振。
粘り強い僕から、三振を2つ取るとは…。
なお九条選手は相変わらず、声を張り上げている。
比較的おとなしい選手が多い、札幌ホワイトベアーズの中では異彩を放っている。
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