第240話 早くも正念場?

 新潟コンドルズとの初戦は、相手先発が右腕の北前投手であったが、相性の良さもあってか僕は7番ショートでスタメン出場した。

 4打数で内野安打1つ。

 良くは無いが、4タコとヒット一本出るのでは大きく違う。

 内野安打はサードゴロだったが、ボテボテだったのが幸いした。

 2打席目には芯に当たったが、ショートの正面だった。

 良い当たりがヒットにならず、ボテボテのゴロがヒットになるというのも面白いものだ。


 2戦目は相手の先発が右腕の山下投手であり、僕はスタメンに名前が呼ばれず、ベンチスタートとなった。

 

「よお」

 試合前の打撃練習を終え、ベンチに戻ろうとすると、懐かしい声がした。

 声の主は平井だった。

 

「おう、相変わらず何を着ても似合わないな」

 平井は真新しい新潟コンドルズのユニフォームに身を包んでいた。

「急だったんで俺のユニフォームができてないんだ」

 平井は大柄なので、去年在籍していた外国人選手のユニフォームをとりあえず着ている。

 

「まあ、見てろよ。直に慣れるさ」

「ところで葛西には会ったのか?」

「いや、あいつは今、茨城に遠征中だ」

 葛西は開幕一軍をつかんで、当初は活躍していたが、次第に研究され打率が下がり、今は二軍に落ちていた。

 現在、新潟コンドルズの二軍は札幌ホワイトベアーズ戦のため、茨城にいる。(札幌ホワイトベアーズの二軍は茨城県を本拠としている)

 

「また葛西とチームメートになるとはな」

「ああ、お前も早く戦力外になって、新潟に来い。一緒にやろうぜ」

 意味がわからん。

 

「悪いな。泉州ブラックスのショートのレギュラーを掴みつつあるから、しばらくは無理だな」

「大丈夫だ。すぐに打てなくなるさ。またドラフトで大型新人を取るかもしれないし」

「縁起でもない。お前は二軍に合流しなくて良いのか?」

「ああ、今日一軍登録された」

 

 トレードで獲得して、いきなり一軍に起用するということは、新潟コンドルズも平井に期待しているのだろう。

 もっともその期待は長くは続かない。

 最初はチャンスをあたえられるだろうが、それを生かせなければ、すぐに見切りをつけられるだろう。


 スタメン発表があり、平井はいきなり7番指名打者でスタメンとなった。

 平井は守備は一塁が専門で、外野も守れるがそんなには上手くない。

 肩も足もプロ野球選手としては平準である。

 だから打撃でアピールしなければいけない。


 泉州ブラックスの先発は、御方投手。

 大卒だが僕も同年代であり、高校時代に対戦経験がある。

 当時から直球に威力がある、本格派の投手であったが、プロに入って緩急を使うことを身に着け、今シーズンはローテーションに定着している。

 ちなみに平井は夏の甲子園で御方投手からホームランを打ったことがある。(第154話)


 試合が始まり、平井の移籍後初打席は2回表、ツーアウト二塁の場面でやってきた。

 僕はベンチから複雑な思いでその対決を見送っていた。

 立場としては、当然チームメートの御方投手を応援すべきだろう。

 だが心の中では、何とか平井に打ってほしいと思っていた。

 恐らく平井に与えられるチャンスはそう多くない。

 一打席、一打席が勝負だろう。


 平井はバッターボックスに入った。

 高校時代と威圧感は変わらない。

 今とあの頃では大きく違うのは自信だろう。

 高校時代の平井はバッターボックスでいつも自信に満ちていた。

 どんな投手からでも打ちそうな気がしていたし、実際によく打った。

 一番の僕、二番の葛西はとにかくチャンスを作って、三番の山崎、四番の平井に繋げば面白いように点が入った。

 時には勝負を避けられることもあったが、その場合は五番の柳谷が良く打った。


 あのチームの一番から四番までがプロ入りし、しかも全員が一軍経験があるというのは凄いことかもしれない。

 我ながら凄いメンバーが集まったものだ。


 初球、真ん中高め入るツーシーム。

 恐らく失投だろう。

 高校時代の平井なら間違いなくスタンドに運んでいる。

 しかし、平井はこの球を見逃してしまった。

 初球から打っていくという積極的が失われてしまったのか…。


 プロのピッチャーはそうは失投はしない。

 2球目はボールゾーンからストライクゾーンに入ってくるカーブ。

 平井はこれも見逃してしまった。


 3球目は低めへのスプリット。

 バットを振りかけたが、途中で止めた。

 しかし判定はストライク。

 振ったという判断だ。

 平井はうなだれながら、ベンチに戻っていった。


 5回裏、ワンアウトランナー無しの場面で平井の打順を迎えた。

 点差は1対0で泉州ブラックスがリードしている。

 高台捕手が珍しくホームランを打ったのだ。

 マウンドには引き続き御方投手。


 初球。

 真ん中低めへのスプリット。

 平井はバットを出し、平凡なセカンドゴロに倒れた。

 さっきの打席で初球を見逃した事を反省しての事だと思うが、ここは裏目に出てしまった。


 7回表、今日スタメンの泉選手がフォアボールで出塁した場面で、僕が代走として告げられた。

 点差は5対1と泉州ブラックスがリードしている。

 送りバントで二塁に進塁し、ヒットでホームインした。

 

 そして7回裏、そのままショートの守備についた。

 この回の先頭バッターは平井からだ。

 ここまでの2打席は内容も良くない。

 早くも正念場かもしれない。

 

 

  


 

 

 

 

 

 

 

 

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