第509話 両軍譲らず?

 京阪ジャガーズとの今季初戦は、0対0のまま、6回表、札幌ホワイトベアーズの攻撃。


 ノーアウト二塁でランナーは、俊足の僕。

 ここはランナーを三塁に進めて、先取点を取りたい場面だ。

 でもベンチのサインは、バスターエンドラン。

 そうですか、そうですか。

 仰せとあれば従いましょう。

 全力を尽くしますが、結果の責任はベンチで取ってくださいね。

 

 そう思いながら、リードをとった。

 相手バッテリーもバカじゃない。

 明らかに僕がスタートを切ることを警戒している。

 今度も立て続けに牽制球が3球来た。


 そして初球。

 投げると同時に僕はスタートを切った。

 投球は内角低目へのスプリット。

 ボール気味であり、バントするには難しい球だ。


 しかし湯川選手はバットコントロールが優れている。

 バントの構えから素早くバットを引き、コンパクトに振り、バットに当てた。


 良くぞ当てた。

 褒めて使わす。

 いくらスピードスターとは言え、さすがに警戒された場面で三盗を決められるほど、プロの世界は甘くない。


 打球はボテボテのショートゴロとなり、僕は難なく三塁に到達した。

 普通なら一塁もセーフになってもおかしくない打球だったが、ショートは名手、木崎選手。

 ダッシュしてボールを拾うと、一塁に素晴らしい送球をした。

 間一髪、アウト。

 

 まるでショート守備の教本ビデオを見ているような、一切無駄のない、ため息出るくらい、素晴らしいプレーだった。

 

 とは言え、湯川選手も良くバットに当てたものだ。

 もし空振りしていれば、三塁は憤死していただろう。


 これでワンアウト三塁で、道岡選手。

 相手が番場投手とは言え、きっと前に転がしてくれるだろう。

 そうしたら、僕は無心でホームに突っ込むだけだ。


 だがここは番場投手が踏ん張った。

 フルカウントとなったものの、最後は外角への意表をつくチェンジアップを、道岡選手は見逃してしまった。

 一塁に歩きかけたところを見ると、ボール球に見えたのだろう。

 ここは勇気を持って、チェンジアップを投げきった番場投手に軍配が上がった。


 続くバッターは4番のダンカン選手。

 ツーボール、ワンストライクからのツーシームを捉えたように見えたが、センターの守備範囲内だった。


 センターの中道選手が打球を捕球した瞬間、番場投手は何度もガッツポーズして、マウンドを降りた。


 せっかくチャンスを作ったのに…。

 と残念な気持ちもあるが、番場投手も素晴らしかったし、木崎選手のプレーも大きかった。


 もし湯川選手がセーフになっていれば、ノーアウト一、三塁。

 そうなっていれば、結果は全然違っていたかもしれない。

 無表情でベンチに戻る、木崎選手を見ながら、そう思った。

 

 6回裏のマウンドには、鬼頭投手が上がった。

 ルーカス投手も残留したので、今シーズンもKLDSは健在である。

 相変わらずの寅さん顔で、顔に似合わない(?)豪速球で並み居るバッターをねじ伏せる。


 今日もその速球は冴え渡り、いきなりヒット2本を打たれた。

 ノーアウト一、二塁。

 ダメじゃん。

 僕らはマウンドに集まった。

 

「どうした。調子悪いのか?」と武田捕手。

「いえ、絶好調です。

 打ったバッターが凄いだけです」

 ちなみに一塁のダンカン選手は腕組みをして、あくびをしている。


「次は木崎だ。

 恐らくバントをしてくると思うが、ヒットエンドランも、バスターエンドランもあり得る。

 そのまま打ってくることも考えれるので、各自頑張るように。以上」

「おうっ」

 

 武田捕手からのあまり意味のなさそうな掛け声に応え、僕らは守備位置に戻った。

 唯一意味があったとすれば、鬼頭投手に一息入れさせることができたところか。

 まあいいや。さあこっちに打ってこい。

 僕は改めて気合を入れた。 

 

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