第559話 せめてアシスト賞でも…

 初球。

 フォーク。

 外角低めに決まった。

 僕は悠々と見送ってストライクワン。

 これはバットに当てても、内野ゴロとなるのが関の山である。

 ちなみに関の山の語源は、今の三重県の亀山市に関町という地名があって…(以下省略)


 2球目。

 またしてもフォーク。

 さっきよりも更に厳しいコースだ。

 これもギリギリに決まって、ストライクツー。

 

 うーん、追い込まれたね。

 でもこれからこれから。

 ここからが僕の真骨頂である。


 3球目。

 内角へのストレート。

 見送ってボール。

 これでワンボール、ツーストライク。

 次はまたフォークか。

 カットボール、ツーシームもあるし、稀にシンカーもあるそうだ。

 さあ何の球種に的を絞るかな。

 僕は一度バッターボックスを外した。


 そして狙い球を決め、再びバッターボックスに入った。

 オールスターだし、凡退しても思い切ったバッティングをしよう。

 そう心に誓った。


 4球目。

 真ん中高めへのストレート。

 セオリーなら、3球目に内角の速い球を見せたので、外角への変化球

が予想される場面だが、天の邪鬼な僕はストレートに的を絞っていた。


 見送ればボール球かもしれないが、僕は思い切り振り抜いた。

 打球は鋭いライナーとなって、ピッチャーの頭を越えて、センターに飛んでいる。


 センターの浮田選手(東京チャリオッツ)は一度前進しかけたが、すぐにバックに切り替えた。

 一塁に走りながら、横目で打球の行方を見ていると、思いの外打球は伸び、浮田選手の頭上を越え、センターの外野フェンスにダイレクトに当たった。

 

 僕はそれを見て、一塁を蹴って二塁に向かった。

 二塁に到達した時点では、センターの浮田選手が打球を抑えたところだった。

 僕はそれを見て二塁を蹴って、三塁に向かった。

 悠々セーフ。

 スリーベースヒットだ。


 これで今日2打数2安打。

 これは敢闘賞くらいはあるかも。

 そしてもしここでホームスチールなんか決めた日には、最優秀選手賞も見えてくる。

 次は2番の中道選手だ。

 さあ今度こそサポートをお願いします。

 

 ホームスチールを成功させる条件は以下の通りだ。

①相手バッテリーが警戒していないこと

②投球が緩いボールであること

(カーブ、チェンジアップ等)

③バッターが空振りするなど、サポートしてくれること

④失敗を恐れず、思い切ってスタートを切る度胸があること(つまり、バカであること。作者補足)


 ホームスチールは難易度が高いが、これらの条件が重なれば、成功する可能性もある。

 逆に言うと、このいずれかが当てはまらないとホームスチールを成功させるのは困難である。


 ピッチャーの様子を見ると明らかに警戒している。

 そして警戒している中で、緩いボールを投げてくることは考えづらい。


 バッターの中道選手はサポートしてくれるかもしれないが、さっきみたいに打ち頃の球が来ると、打ちに行くだろう。


 よってホームスチールを狙うには、厳しい条件が揃っている。

 いくら天の邪鬼な僕でも、さすがにこの場面ではホームスチールを試みるのは躊躇する。


 高橋隆久投手の中道選手への初球。

 クイックモーションで投げ、しかもストレートだ。

 やっぱりね…。

 スタートを切らないで良かった。

 もしここでホームスチールを試みていたら、単なる犬死にだった。

 

 そして中道選手はストレート狙いだったようで、この球を打ち返した。

 打球はライナーで、レフト前で弾んでいる。

 僕はゆっくりと先制のホームインした。


 中道選手はここでもセカンドスチールを決めた。

 先制タイムリーに、盗塁三つ。

 このままチームが勝てば、MVPかもしれない。

 いいなー、ずるいなー。

 お膳立てしたのは僕なのに…。

 せめて最優秀アシスト賞とかもらえないかな。

(そんな賞は無い。サッカーじゃあるまいし。作者より)

 

 そして続く水沢選手にもタイムリーヒットが生まれ、オールシーリーグはこの回2点を先制した。

 

 

 

 

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