第558話 旧知の仲?

 中道選手の狙いはホームスチールを決めて、先制点を取り、敢闘賞、あわよくば最優秀選手(MVP)を取ることだろう。


 それは僕が狙っていたものだ。

 せっかくヒットで出塁したのに、初球打ちしやがって…。

 この恨みはらさでおくべきか…


 個人的な怨嗟はともかく、今日明日だけはチームメート。

 仲間の成功を素直に喜ぶ…、ような広い心は、残念ながら持ち合わせていない。

 僕はホームスチールが失敗することを神に祈っていた。


 3番打者は岡山ハイパーズの水沢選手。

 もっか首位打者とあって、バットコントロールが上手な選手だ。

 きっと中道選手のホームスチールをサポートするだろう。


 初球。

 ど真ん中へのストレート。

 球速表示は161km/h。

 打てるもんなら打ってみろ、とでも言うような球だ。

 水沢選手はピクリとも動かず見送った。

 ストライクワン。

 

 2球目。

 チェンジアップが外角に決まった。

 これでノーボール、ツーストライク。

 恐らく次はボール球。

 ホームスチールを狙うならここか。


 3球目。

 予想に反して、ど真ん中へのストレート。

 球速表示は163km/h。

 水沢選手は手が出ず、見逃しの三振に倒れた。

 中道選手はスタートを切らなかった。


 これでツーアウト三塁に替り、バッターは4番の仙台ブルーリーブスの深町選手。

 今度こそ、絶好のホームスチールの場面だ。

 だが深町選手は初球のストレートを打ち、センターフライに倒れた。


 結局、中道選手はホームスチールはできなかった。

 次は僕が狙ってやる。

 そう思いながら、ショートのポジションに向かおうとすると、ベンチに戻る中道選手とすれ違った。

 

「ごめんな、初球打ちして。

 お前の盗塁をサポートしようと思っていたんだけど、打ち頃の球が来ちまってよ」

「いえいえ、中道さんこそ、ナイススチールでした」

 

 中道選手は僕よりも学年でいうと、一つ上である。

 年上に素直に謝られると、悪い気はしない。

 これでわだかまりはなくなった。

 さあ次は守備を頑張ろう。

(単純な性格で良いですね。悩みが無さそうで、羨ましいです。作者より)


 2回表裏は両チームともランナーを出したものの無得点に終わり、3回表のオールスカイリーグの攻撃も無得点と、スコアレスのまま、3回裏のシーリーグの攻撃となった。


 この回は9番の川崎ライツの与田選手からの打順であり、僕に打順が回る。

 ちなみに与田選手は、フロリダ自主トレ仲間である。

 大平監督からは今日は5回までの出場と言われており、これがラストチャンスかもしれない。

 ここは一発狙ってもよかですか?


 与田選手は三振に倒れ、全国のプロ野球ファン注目の僕の2打席目を迎えた。

 ここは一発かましてやりたいところだ。


 スカイリーグのマウンドは、この回から泉州ブラックスの高橋隆久投手に替わっている。


 高橋隆久投手はご存知のように、僕が泉州ブラックス在籍時にドラフト1位で入団した投手であり、僕とは高橋「隆」の字を争った選手だ。

(誰も覚えていないと思います。第210話と第254話に登場しました。作者より)


 スリークォーターのピッチングフォームから、150km/hを越えるストレートとツーシーム、カットボール、フォークを武器としている左腕だ。


 全ての球に対応しようと思ったら、中途半端なバッティングになるのがオチなので、ここは狙い球を絞っていきたい。


 かっての後輩とオールスターの場面で対戦できるのは嬉しい。

 当然、旧知の仲だし、同姓の先輩後輩である。

 言わなくても阿吽の呼吸で、打たせてくれるだろう。

 そんな淡い期待を抱いて、バッターボックスに入った。

 

 

 

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