第557話 オールスター試合開始

 スカイリーグの1番バッターは、静岡オーシャンズの新井選手。

 静岡オーシャンズ時代のポジション争いのライバルであり、今やリーグを代表するショートストップに成長した。

 攻走守、高いレベルで備え、毎年コンスタントに打率.280以上、ホームラン15本前後、盗塁25前後を記録し、ゴールデングラブ賞の常連でもある。


 もしあのまま静岡オーシャンズに残っていたら、僕は控えから抜け出せなかったと思う。

 そう言う意味でも僕は運が良かった。


 シーリーグの先発は、川崎ライツの横田投手。

 その初球を捉えた鋭い打球が、三遊間に飛んで来た。

 これは挑戦状か。

 受けて立たなきゃ男がすたる。

 僕は横っ飛びした。


 そして打球はグラブの先に飛び込んでいた。

 球場内が湧いている。

 ドモドモ。

 僕はさも当たり前のように、定位置に戻り球回しに加わった。


 この回は結局、三者凡退に抑え、いよいよ一回裏、僕の第一打席を迎える。

 

 「1番、ショート、高橋」

 地鳴りのような大声援の中、打席に入った。

 地元開催で札幌ホワイトベアーズから唯一のスタメン出場とあって、僕への期待が大きいのだろう。

 とてもありがたいことである。

 何とか期待に応えたい。

 そう思いながら、僕はゆっくりと打席に立った。


 スカイリーグの先発は、ファン投票1位の四国アイランズの宇和投手。

 プロ入り3年目で、早くもリーグを代表するピッチャーとなった。


 僕とはリーグが異なるので、対戦経験はない。

 左腕でありながら、150km/hを越えるストレートをコンスタントに投げ込んでくる上に、ツーシーム、カットボール、スライダー、スプリット、フォーク、チェンジアップを投げ分けてくるそうだ。


 打てるか、そんなピッチャー。

 昔の僕ならそう思っただろう。

 でも今の僕はプロ10年目で、大リーグ挑戦を目指している。

 これくらいのピッチャーに臆するようなら、とても大リーグ挑戦なんて覚束ない。


 初球。

 外角低めへのスプリット。

 いきなりかい。

 ストライクゾーンの高さから、ボールゾーンに変化する、素晴らしい球だ。

 だが僕は見送った。

 ボールワン。


 2球目。

 外角から内角へ食い込んでくるスライダー。

 凄い変化量だ。

 だが見送ってボール。

 これでツーボール、ノーストライク。


 3球目。

 外角低めへのストレート。

 バットを出したが、ファール。

 これはわざとファールとしたのだ。


 ストライクゾーンギリギリだったし、仮に打ってもせいぜい内野ゴロだろう。

 速い球にタイミングを合わせるという意図もある。


 そしてツーボール、ワンストライクからの4球目。

 内角低めへのスプリット。

 見逃せばボールかもしれない。

 だが僕はうまく腕を畳み、ライト方向に弾き返した。


 打球はライト前に弾み、ヒット。

 幸先よく出塁することができた。

 大歓声が球場内を包み、僕は一塁ベース上で左手を挙げて応えた。 

 

 幸先よく出塁することができた。

 ここでファンの皆様が僕に期待するのは盗塁だろう。


 バッターボックスには、2番の京阪ジャガーズの中道選手。

 盗塁王を争う憎き(?)相手だが、今日はチームメート。

 きっと僕の盗塁をサポートしてくれるだろう。


 初球。

 サインは出てなかったが、僕はスタートを切った。

 そもそもオールスターなので、ほとんどサインプレーは無い。


 ここは空振りして盗塁をサポートしてくれる…と思いきや、中道選手はバットを出した。

 打球は緩いショートゴロになり、僕は二塁フォースアウト、そして一塁はセーフとなった。

 僕は渋々ベンチに戻り、中道選手は一塁ベース上に残っている


 3番はの岡山ハイパーズの水沢選手。

 その初球、中道選手はスタートを切った。

 キャッチャーの東京チャリオッツの古馬捕手は強肩だが、判定はセーフ。

 タイミングは微妙に見えたが、こ今日はオールスター。

 ここはリクエスト等の無粋な事はしない。

 なおこの間の投球はボール。


 そして2球目。

 何と中道選手はまたもやスタートを切った。

 素晴らしいスタートだ。

 古馬捕手は三塁に投げたが、やや送球は逸れ、セーフ。


 盗塁2つで三塁に到達した、中道選手は得意そうな顔をしている。

 畜生、それ僕がやりたかったのに…。

 ずるいずるい。

 

 兎にも角にも、これでワンアウト三塁。

 シーリーグは先制のチャンスを迎えた。


 

 


 

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