第362話 ぽるしぇ号と首位攻防戦

 ホームゲームの時は、僕は自宅マンションから、マイカーで通う。

 名付けて「ぽるしぇ号」だ。

 今は気分だけだが、いつか本物のポルシェに乗ってみたい。


 結衣に言ったら、年俸が一億円を超えたら考える、と言われた。

 かっての僕なら無理だと思っただろうが、今の僕は決して夢ではないと思っている。


 もし今季、規定打席に到達して、打率ベスト10に入ったりしたら、年俸は5,000万円を超えるだろう。

 そしてその成績を3年くらい連続で残せば一億円に到達するかもしれない。


 プロ入り時は契約金1,000万円で年俸440万円だったことを思えば、よくここまで来たものだと思う。


 もし1年目のあの夜、山城コーチに偶然会わなければ、今の僕は無かったかもしれない。

 そう思うと、人の運命なんて不思議なものだと思う。

(山城コーチの最初の印象は最悪だったが…)


 球場に着くと、必ず谷口が先に来ている。

 僕も球場に着くのが早い方だが、谷口には敵わない。


 谷口はホームゲームの時は必ず早出特打をやっている。

 調子が良くても悪くても。


 プロの世界は結果が全てであり、良く練習すれば良いものではない。

 だが練習は嘘付かないというのも、また真理だと思う。


 さて、今日からは大事な首位、京阪ジャガーズとの三連戦だ。

 優勝戦線に踏みとどまるためには、最悪でも2勝1敗が必要である。


 その重要な初戦のマウンドを託されたのは、左腕の稲本投手。

 高卒10年目の今シーズンは開幕ローテーションに入り、ここまで5勝3敗と2つ勝ち越している。


 今日のスタメンは次のとおり。

 1 高橋(ショート)

 2 谷口(レフト)

 3 道岡(サード)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 下山(センター)

 6 西野(ライト)

 7 光村(セカンド)

 8 武田(キャッチャー)

 9 稲本(ピッチャー)


 セカンドはロイトン選手ではなく、僕と同学年でオールドルーキーの光村選手が入った。


 京阪ジャガーズの先発は、宗(むね)投手。

 名前が一(はじめ)なので、京阪ジャガーズのファンからは宗一(そういち)といわれている。

 160km/h近くのストレートとツーシームが武器の投手だ。


 初回表、稲本投手はいきなりフォアボールを3つ連続し、いきなりノーアウト満塁のピンチを背負った。

 今日はボールとストライクの差がはっきりしすぎている。

 そしてバッターは4番の下條選手。

 もっかリーグのホームラン王である。


 もしここでホームランなんぞうたれた日には…。

 打たれちゃったね…。

 僕はアングリと口を開けて、打った瞬間それとわかる、ホームランを見上げた。


 これで4対0。

 負けられない三連戦の初戦で、いきなり4点のビハインドだ。

 しかも相手は京阪ジャガーズの強力な投手陣。

 うーん、厳しい試合展開だ。


 1回裏の僕の打席は空振りの三振。

 伸びのあるストレートとツーシームの前にフルカウントまで粘ったものの、最後ハーフスイングを取られてしまった。


 いきなり初回に4点を取られてしまったが、稲本投手も粘る。

 2回、3回と無失点で切り抜け、3回裏、ワンアウト二塁で僕の打順を迎えた。


 さっきの打席は三振したが、宗一投手の球筋は良く見えた。

 ストレートとツーシーム、どちらかに的を絞らないと、さっきの二の舞いになる。


 初球。

 外角低めへのストレート。

 見送ってボール。


 2球目。

 内角へのストレート。

 少し仰け反って避けた。

 これもボール。

 こんな球が当たった日には、悶絶必至である。


 3球目。

 外角高目へのツーシーム。

 手が出なかったが、ボール。

 カウントは、スリーボールになった。


 4球目。

 ここは一球見ていく場面か。

 真ん中高目へのツーシーム。

 僕はこの球に的を絞っていた。

 思い切りセンターに打ち返した。

 打球はライナーでセンター前に落ちた。

 二塁ランナーの武田捕手は三塁を蹴ってホームイン。

 これで1点を返した。

 僕としても久しぶりの打点だ。

 

 

 

  

 

 

 


 


 

 


 


 

 

 

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