第228話 杜の都と大型新人
次の日、案の定二日酔いとなったが、熊本空港でお土産を買い、羽田空港経由で仙台へ飛んだ。
今日はアウェーの移動日なので、チームの全体練習は無い。
だから空港からチームのバスでホテルに直接バスで向かう。
仙台は一度ゆっくり歩いてみたい街の一つだ。
杜の都と讃えられる、バスの車窓から見る景色は、初夏という事もあって、フォレストグリーンの街路樹が生い茂り、青く透きとおった空と鮮やかに調和している。
今時期は暑くも寒くもなく、適度に風もあり、散歩したらさぞかし気持ち良いだろうなと思う。
しかしながら僕は遠征時、ホテルに着いたら基本的に外出はしない事にしている。
道に迷うと明日の試合に差し支えるし、アウェーとは言え、僕の顔を知っているファンの方もいるからだ。
(別に見られて困るような場所に行くわけでは無いが…)
だからバスの車窓から美しい街並みを見るだけで我慢する。
引退したら、ゆっくりと訪れたい。いつになるかはわからないが。
(誰ですか、そんなに遠い未来じゃないと言っている方は…)
仙台ブルーリーブスは現在、シーリーグの最下位に沈んでいる。
親会社が大企業という事もあり、毎年のように大型補強をしているが、昨シーズン後は特筆するような補強はしなかった。
若手を育てる方向に舵を切ったのかもしれない。
レギュラー野手やローテーション投手の平均年齢は三十を越えており、ここ数年は若手の伸び悩みが指摘されている。
今シーズンは開幕当初から若手を積極的に起用したが、なかなかうまく噛み合っていない。
エラー数は12球団ワーストであり、ピッチャーの防御率もリーグワースト。我慢の時期となっている。
泉州ブラックスとしては、これ以上首位の中京パールスから離されないために悪くても2勝1敗、できれば三連勝したいところだ。
そんな初戦、泉州ブラックスの先発には今期初先発の浜投手が抜擢された。
入団3年目の高卒社会人出身の右腕で、学年では僕の一つ下となる。
対する仙台ブルーリーブスの先発は岩城投手。
昨秋のドラフトで4球団から一位指名を受け、抽選の末、入団した大型右腕だ。
高校時代は甲子園を湧かせ、入学した東京六大学の西京大学でもエースとして活躍した、まさに野球エリートである。
僕ほどではないが、ルックスも良く、女性ファンも多い、いわゆるスター候補の選手である。
相手が右腕ということもあり、僕は今日はスタメンでは無いと思っていたら、ミーティング時に7番ショートで名を呼ばれた。
一昨日の試合でタイムリースリーベースを売ったことを評価してもらってのことだろうか。
栄ヘッドコーチに聞いてみた。
「おう、岩城はお前と正反対だろう。顔良し、投げて良し、経歴良し、才能あり。ほら燃えてくるだろう?」
すみません、それはどういう意味でしょうか。
後でじっくりと聞かせてください。
とは言え、右投手相手のスタメンは嬉しい。
ここでアピールして、右投手の時も出場機会を増やせるようにしたいものだ。
今日の試合のスタメンは以下の通りである。
1 伊勢原(セカンド)
2 宮前(ライト)
3 岸(センター)
4 岡村(ファースト)
5 デュラン(レフト)
6 水谷(サード)
7 高橋隆(ショート)
8 高台(キャッチャー)
9 浜(ピッチャー)
試合は両先発とも素晴らしい立ち上がりを見せ、2回裏までお互いに一人のランナーも許さなかった。
3回表、僕からの打順だ。
この打席の僕のミッションはてきるだけ球数を投げさせること、そしてあわよくば塁に出ることである。
例え凡退するにしても、簡単に打ち取られるわけにはいかない。
僕は気合いを入れて、バッターボックスに向かった。
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