第541話 以外な展開

 仙台ブルーリーブスの先発は、作保投手。

 彼も僕らと同い年であり、実は甲子園で対戦経験がある。

 

 大卒社会人経由で、今年4年目の右腕であり、速球が武器の本格派である。

 昨シーズンまでは中継ぎがメインだったが、今シーズンからは先発に回り、既に2勝(5敗)を挙げている。


 僕はバッターボックスに入った。

 甲子園で対戦したのは、ちょうど10年前になる。

 あの時は確か、僕は3打数2安打(1四球)で、平井のホームラン等で快勝した。

 勝ちはしたものの、高校生離れした体格から凄い速球を投げ込む投手だった。


 高校の時からドラフト候補に挙げられていたが、やや伸び悩み、大学、社会人で少しずつ力をつけて、ドラフト指名を勝ち取ったとのことだ。


 初球、外角への高速スライダー。

 見送ったが、ストライク。

 高校時代はストレート主体であり、こんな球はなかった。

 社会人で身につけたのだろう。


 2球目。

 内角へのストレート。

 バットを出したが、空振り。

 素晴らしい球だ。

 高校時代からキレが格段に良くなっている。

 これでノーボール、ツーストライクと追い込まれた。


 でもここからが僕が不動の一番打者として、君臨している所以である。

 際どい球はファールで逃げ、9球目をフォアボールを選んだ。


 自分で言うのも何だが、打てば3割バッターだし、簡単にはアウトにならず、粘ることが出来る。

 塁に出れば足が速いし、守備も上手い。

 相手チームにとっては厄介な選手になったのでは無いだろうか。


 そんな事を考えながら、僕は一塁に向かった。

 作保投手はロージンバッグに手をやりながら、僕の方を見ている。

 きっと嫌なランナーを塁に出したと思っているだろう。


 今日の相棒、もとい2番はご存知(?)、西やんこと、ベテランの西野選手だ。

 長打力は全く無いが、足が速い。(肩も結構強い)


 そして僕にとっては盗塁のサポートをしてくれる、心強い先輩だ。


 西野選手は最初から送りバントの格好をしている。

 でも簡単に送ってくるとは限らない。

 打率は低いがバットに当てることは上手いので、バスターもあり得るし、もし盗塁を仕掛けたら恐らく空振りして援護してくれるだろう。


 もちろん仙台ブルーリーブスバッテリーは、盗塁をとても警戒している。


 そして牽制球を2球挟んでの、初球。

 僕はスタートを切る真似をしたが、すぐに止まった。

 西野選手はバットを引き、ボールワン。


 2球目。

 僕はスタートを切った。

 そして西野選手はうまくバットに乗せた。

 打球はセカンドの頭上に飛んでいる。

 良し、ヒットエンドラン成功だ。

 そう思った瞬間、何とセカンドの城選手が後ろ側にダイビングした。

 そしてグラブの先で掴み取っていた。

 うそーん。

 僕はもちろん戻れず、ダブルプレー。


 今のは仕方ないさ。

 相手の守備が良すぎただけさ。

 誰もそのように励ましてはくれない。

 ベンチの首脳陣からの冷たい視線を背中に浴びながら、僕はベンチに戻った。

  

 この回は結局無得点に終わり、その裏は庄司投手が三者凡退に抑えた。


 この試合、両チームの先発を聞いた時には、正直言って打ち合いになると思っていた。

 だがどちらの投手も気合の入った投球を披露し、何と5回裏まで僕が初回にフォアボールで出た以外、両チームとも一人のランナーも出さなかった。

(僕の第2打席目はサードゴロ…)


 つまり作保投手はここまでノーヒットノーラン、庄司投手はパーフェクトを継続中である。


 時計を見ると、試合開始からまだ1時間ちょっとしか経っていない。

 意外な試合展開になってきた。


 6回表も三者凡退に終わり、僕まで打順が回ってこなかった。

 そして6回裏も庄司投手は良い当たりを打たれながらも、ショートの好守にも助けられて、三者凡退に抑えた。


 これで何と両チームとも各回の攻撃が3人ずつで終わっていることになる。

 これって、凄くないだろうか。

 そんな事を考えながら、イニングチェンジとなり、僕はベンチに戻った。


 さて7回ラッキーセブンの攻撃は、僕からの打順だ。

 作保投手は初回から飛ばしている。

 そろそろ疲れが見えてくる頃ではないだろうか。

 だが、ここまでノーヒットノーラン継続中なので、ピッチャーを変えづらいだろう。

 この回はチャンスだ。

 僕はバットを握りしめ、バッターボックスに向かった。

 

 

 

 

 


 

 

 

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