第540話 杜の都と同い年祭り

今日からは仙台ブルーリーブスとのアウェーでの2連戦。

 僕は空港から球場に向かう、チームバスの車窓から、仙台の街並みを眺めていた。

 青々とした木々が生い茂るこの季節の仙台は、まさに杜の都。

 何度来ても最高である。


 古い歌になるが、子供の頃、青葉城恋唄をラジオで聞いて、そのメロディー、そして歌詞に心を打たれた。

 その歌を聞くたび、初夏の仙台の情景が頭に浮かび、子供心にいつか行ってみたいと思ったのだ。

 

 もっともプロ野球選手という稼業をやっていると、のんびりと歩いて、街並みを楽しむような事は難しい。

 日中は試合か練習だし、夜だってフラフラと歩き回るわけにもいかない。

 だから早朝、ホテルの周りを散歩するだけで我慢してる。


 とは言え、人気選手の宿命で顔が割れているので、すぐにファンに囲まれてしまう。

 仙台ブルーリーブスファンは、比較的大人しいので、仮に札幌ホワイトベアーズが勝った後でも、普通にサインを求めてくる。


 その点京阪ジャガーズファンは怖い。

 もし札幌ホワイトベアーズの勝利後、街中で出会ったら、きっとただでは済まないだろう。

 ホテルの中ですら、京阪ジャガーズファンと思しき方から、殺気に満ちた視線を感じることがある。

 

 それはさておき、今シーズンの仙台ブルーリーブスは開幕からなかなか調子が上がらない。

 今や5位の熊本ファイアーズとすら、4.0ゲーム離された最下位に沈んでいる。


 その最大の要因は、世代交代がうまく進んでいないことに尽きるだろう。

 ここ数年、レギュラーメンバーはほぼ変わらず、なかなか若い選手の台頭がない。

 そうすると年々スタメンの年齢層が上がることになる。

 ベテラン選手も歳とともに年々パフォーマンスが落ちてくるので、結果的に戦力も落ちてくることになる。

 

 若い選手も少しずつ育ちつつあるが、彼らが主力になるまでにはまだまだ時間がかかると思われ、仙台ブルーリーブスは過渡期に来ていると言えよう。


 優勝争いに留まるためには、仙台ブルーリーブス相手に取りこぼすわけにはいかない。

 逆に言うと仙台ブルーリーブスに負けたチームは、優勝争いから後退することになる。


 ところがその大事な初戦。

 エースの青村投手を立てたものの、1対0で敗れてしまった。


 そしてこの試合で不動のサードのレギュラーである道岡選手が自打球を足にあて、更にセカンドの湯川選手も練習中に肉離れを発症してしまった。


 言うまでもなく大ピンチである。

 セカンドはともかく、サードは道岡選手の定位置なので、バックアップ要員が手薄である。

 

 セカンドは光村選手がいるが、サードはブランドン選手が2軍から昇格した。

 ブランドン選手は大リーグで300試合以上に出場した実績があるが、オープン戦でなかなか調子が上がらず、開幕一軍には入ったものの、7打数ノーヒットで二軍落ちしていた。


 札幌ホワイトベアーズの二遊間は、開幕以来、僕と湯川選手で固定されており、控えで光村選手、浅利選手が一軍に残っていた。


 ブランドン選手は二軍落ちしてからも腐ることなく、日本球界に慣れるべく2軍の試合で奮闘し、今回チャンスを掴んだのだ。

 本職はセカンドだが、大リーグではサードを守った経験もあるらしい。


 今日のスタメンは以下のとおり。

 

 1 高橋(ショート)

 2 西野(ライト)

 3 下山(センター)

 4 ダンカン(ファースト)

 5 谷口(レフト)

 6 ブランドン(サード)

 7 光村(セカンド)

 8 上杉(キャッチャー)

 9 庄司(ピッチャー)


 光村選手と庄司投手は僕、そして谷口と同年代だ。

 もっとも光村選手は社会人卒、庄司投手は大卒のため、プロ入り年数では僕と谷口の方が長い。

 さあ今日は同い年カルテットで、勝利を手繰り寄せましょう。


 そんな事を考えながら、僕は第1打席に向かった。 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る