第539話 オールスター投票中間発表
岡山ハイパーズ三連戦は、初戦は勝利したものの、その後2連敗を喫した。
その後も札幌ホワイトベアーズは勝ったり負けたりで、一進一退でなかなか波に乗れない。
そうしている間に、京阪ジャガーズ、岡山ハイパーズ、川崎ライツは調子を上げ、わずか1ゲーム差の中に、4チームがひしめく状況になっていた。
その中でも僕は順調にヒットを積み重ね、打率も.300まで戻していた。(リーグ6位)
打率首位の水沢選手も.319まで打率を落としており、差が縮まってきている。
まだ首位打者を狙えるかもしれない。
ちなみに盗塁数は29個と自己最多を更新し、同数でトップに立っている。
さて季節は6月、初夏を迎えていた。
シーズンも中盤に差し掛かり、オールスターのファン投票も始まっている。
今回、僕は口には出さないが、心の中ではファン投票で選ばれることを期待している。
打率は3割を超え、盗塁数はリーグ1位を争っており、守備も上手く、しかもイケメン。
どうでしょうか?
選ばれる権利はあると思いますが…。
ていうか一度はファン投票で選ばれてみたい。
是非、清き一票をこの私にお願いします。
そして今日は待ちに待った第一回目の中間発表。
どうなっているかな。
試合に向かうチームバスに乗るために、ホテルのロビーに行くと、大平監督と金城ヘッドコーチ、そして新川広報が深刻そうな顔をして何かを話している。
何かあったのだろうか?
「おい、谷口。何かあったのかな?」
トレーニングルームで一汗かき、カバンとタオル片手にやってきた谷口に声をかけた。
谷口はちらっとそれを見て、大きくため息をついた。
「ああ、我がチームは、コンプライアンス上の重大な危機を迎えているらしい」
「コンプライアンス上の重大な危機?」
よくわからないが、深刻な事態らしい。
「重大な危機って何だろう。
チームの存続に関わることか?」
「ああ、ある意味そうだな。
でも大丈夫だ。打つ手はある」
「打つ手?、何だそれは」
「お前、チームを救いたいか?」
「そりゃそうだ。
チームのためなら、俺に出来ることなら何でもやる」
僕は殊勝に答えた。
「そうか、チームを救うためには、お前にしかできないことがある」
「何だそれは?」
「それはだな」
谷口がもう一度、まだ深刻に何かを話している、大平監督の方を見た。
何をもったいぶっているのだ。
早く言えっちゅうねん。
「お前が辞退すれば、全て解決だ」
はあ?、何を言っているのだ?
僕は首をかしげた。
「辞退って何を?」
「オールスターのファン投票だよ」
「はあ?、何で俺が辞退せなあかんのだ?」
「チームの品格を維持するためだよ」
そう言って谷口はスマホの画面を僕に見せた。
それはオールスターのファン投票の中間発表の画面でだった。
僕はそれをひったくって、拡大してみた。
「やったぜ」
僕は小さくガッツポーズした。
ショート部門のファン投票の1位に立っているのだ。
しかも2位とはかなり差がある。
ファン投票での選出に向け、順調な滑り出しだ。
「で、何で俺が辞退すればチームが救われるんだ?」
「お前な。オールスターっていうのは他のチームのファンの方も見るんだぞ。
全国中に我がチームの恥をさらすことになる」
「我がチームの恥って何だ?」
「はあ」
谷口は大げさにため息をついた。
「まあそういうことだ。
お前が辞退すれば、あそこで深刻そうに話している首脳陣と新川さんの悩みも解消される。
考えていおいてくれ」
谷口は僕の肩をポンと叩いて、バスに乗り込んだ。
谷口の言う意味が良くわからない。
何故僕がオールスターを辞退すれば、チームは救われるのだ?
僕は首を傾げながら、チームバスに乗り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます