ドラフト7位で入団して

第542話 後は野となれ、山となれ

　僕はバッターボックスから、サードの深町選手の守備位置を確認した。

　明らかにセーフティバントに備えている。

　これではさすがに成功させるのは難しい。

　改めて相手の守備隊系を見渡した。

　サードが少し前にきており、それを補うように、ショートがややサードよりに来ている。

　セカンドはややセカンドベースよりで、ファーストも左寄りである。

　つまりライト線に流し打ちしたら、長打コースになる。

　そして当たり前だが、作保投手は引っ張らせようと、真ん中から内角へ投げてくる。

　それを右方向に打ち返そうとすると、窮屈なバッティングとなり、相手の思うツボである。

　つまりこういう時はボールに逆らわず打ち返すに限る。

　いくら守備シフトを敷かれても、それを上回るバッティングをすれば良いのだ。

　ということでワンボール、ワンストライクから真ん中高めへのストレートを思い切り引っ張った。

　打球はサードの頭を越えて、レフト前に…は落ちなかった。

　レフトの和光選手が俊足を飛ばして突っ込んできて、前向きにダイビングキャッチした。

　クソッ、僕になんの恨みが。

　もし首位打者を逃したら、夢の中で死ぬほど呪ってやるからな。

　心の中でそのように悪態をつきながら、トボトボとベンチに戻った。

　続く西やん…じゃなかった、西野選手はセーフティバントを試みたが、間一髪アウト。

　続く打者は今日、３番に入っている下山選手だったが、センターフライに倒れた。

　７回表までノーヒットノーランを継続されている。

　やばいよやばいよ～。

　そして７回裏、ここまでパーフェクトに押さえていた庄司投手が突然崩れ、１、２番打者に連続フォアボールを与えてしまった。

　ノーヒットノーランは継続中であるが、大ピンチである。

　ここで迎えるバッターは、３番のメンディ選手。

　僕ら内野陣はマウンドに集まった。

　今日は内野陣のリーダー格の道岡選手が不在であり、ファーストはダンカン選手、サードはブランドン選手の両外国人で、セカンドは出場機会がそれほど多くない光村選手なので、ここは代表として僕が励まさないとね。

「疲れたか？、しょーちゃん」

「誰だよ。しょーちゃんって、お前はオバＱか」

　ピンチにも関わらず、庄司投手は冷静にツッコミを入れる。

「まあ、ここまでノーヒットノーランで来ていること自体があり得ないわけだから、打たれて元々だ。

　ど真ん中に投げ込んで、後は野となれ山となれだ」

「ほう、打たれたら取り返してくれるんだな」

「うーん、今日の作保投手の出来なら自信はないな」

　僕は正直に言った。

　庄司投手は大げさにため息をついた。

「つまりこの試合に勝つには、俺がここを抑えるしかないということだな」

「まあ、そうなるな」

「ありがとよ。おかげでこのピンチは自分で何とかするしかないと思い知った」

　良かった。

　庄司投手は開き直ることができたみたいだ。

　僕らは定位置に戻った。

　そしてメンディ選手に対してはコースをつきすぎたのか、スリーボール、ノーストライクとしてしまった。

「ほれ、ヘボピッチャー、ストライクも投げられないのか？」

　僕は温かい言葉で励ました。

　庄司投手は僕の方をチラッと見た。

　そして４球目。

　本当にど真ん中に投げた。

　お前はバカか？

　こんな場面で相手の３番バッターにど真ん中に投げる奴がいるか？

「カキーン」

　快音を残し、火の出るような打球が三遊間に飛んできた。

　ほら、言わんこっちゃない。

　こんなの取れるわけない。

　僕は一応、精一杯ジャンプした。

「あれ？」

　何とグラブにボールが収まった。

　僕はすかさずセカンドに投げた。

　セカンドランナーは戻れず、アウト。

　そしてセカンドの光村選手がファーストのダンカン選手に送球した。

　一塁ランナーも戻れずアウト。

　あれ？、ということはもしかして？

　まさかまさかのトリプルプレー。

　シーズンに一度あるかないかのプレーがここで飛び出すとは…。

　しょーちゃん、じゃなかった庄司投手は雄叫びを上げている。

　良かったね。

　僕のおかげだ。

　感謝しろよ。

　そう考えながら、仙台ブルーリーブスファンの大きなため息を背に、ベンチに戻った。