第543話 しょーちゃん、こーちゃん、りゅーちゃん

 「良かったな。しょーちゃん、俺の守備力に感謝しろよ」

 僕はベンチに戻ってきた、庄司投手を掴まえて言った。

 

「けっ、バカヅキのくせに。

 大体なお前が変なことを言ったせいで、脱力して甘い球を投げてしまったんだぜ」

「いやいや、ノースリーにしたのはお前の責任だろう。

 そもそもあんな場面で、ど真ん中に投げるバカがいるか」

「仕方ねぇだろ、ストライクを投げる自信が無かったんだから」

 

 とまあ、同い年の気安さで、ベンチに戻って、このような会話をした。

 ノーヒットノーラン継続中なので、恐らく緊張しているだろう。

 それをほぐすのも僕の役割だ。

 そういう深謀遠慮があっての一連の発言である。

 そこんとこ、誤解しないように。

 

 さて試合に戻って8回表。

 ピンチの後にはチャンスあり。

 この回は4番のダンカン選手からの打順だ。


 こういう試合を決めるのは得てして、一発のホームランだったりする。

 ダンカン選手もそう思っているのだろう。

 初球からフルスイングした。

 だが空振り。

 そして2球目をファールの後、3球目も空振りしてしまった。

 ダメじゃん。


 そして続くバッターは谷口。

 谷口はフルカウントまで粘ったが、最後はチェンジアップを打たされて、ショートゴロ。

 

 この回もツーアウトになってしまった。

 おいおい、本当にノーヒットノーランやられるかも。

 まあ相手も同じことを思っているだろうけど。

 しかし8回まで両チームノーヒットなんて、過去にあったのだろうか。

 地味に凄い試合になってきたかもしれない。


 そして6番はブランドン選手。

 ケガをした道岡選手の代わりに一軍昇格し、サードに入っている。

 試合を決めるのは、こういう選手だったりして。

 そんな事を思っていたら、ノーボール、ツーストライクからのスプリットを捉えた。


 打球はライト線上に飛んでいる。

 フェアかファールか。

 僕らはベンチから身を乗り出した。

 

「フェア」

 ようやく両チーム通じて、初ヒットだ。

 ブランドン選手は一塁を蹴って、二塁に向かう。

 ツーベースヒットだ。


 ブランドン選手は二塁ベース上で、ガッツポーズしている。

 相手の作保投手は淡々とした表情でボールを受け取ったが、内心は動揺しているだろう。


「こーちゃん、死んでも打てよ」

 僕はネクストバッターズサークルから、バッターボックスに向かう光村選手に声をかけた。

 

 光村選手は一度僕の方を向いて、中指を立てて見せた。

 あれってテレビ画面に映ったら、炎上するやつじゃないか?

 光村選手はDQ〇なのか?

 (ドラゴンクエストではないですよ。念の為)


 光村選手もようやく巡ってきたチャンスを活かしたいだろう。

 今シーズンは二遊間は、僕と湯川選手で固められていたので、なかなか出場機会が無かった。

 見るからに燃えているのがわかる。

 

 8回表になっても作保投手の球威は衰えていない。

 だがノーヒットノーランを逃したことで、内心は気落ちしているだろう。

 隙があるとしたら、ここだ。


 初球。

 ボール球から入ってきた。

 一呼吸置くためだろう。

 光村選手は冷静に見送った。


 2球目。

 内角へのストレート。

 打ちに行ったが、ファール。

 やはりまだ球威は衰えていない。

 作保投手は恐らくこの回限りだろう。

 最後の力を振り絞って投げているようだ。


 そして3球目。

 外角へのストレート。

 これも空振りした。

 速い球に完全に差し込まれている。


 4球目。

 低めへのストレートか。

 いや、スプリットだ。

 光村選手はまるで狙いすましたからのように、この球を捉えた。


 糸を引くようなライナーが、ショートの頭上を襲う。

 ショートの片倉選手は名手だ。

 懸命にジャンプした。


 そして打球はグラブの先を掠めて、レフト前に弾んでいる。


 ツーアウトなので、二塁のブランドン選手は打った瞬間スタートを切っており、三塁を回ってホームに帰ってきた。

 これで1点を先制。

 虎の子の1点をもぎ取った。


 次の回に備えてキャッチボールしていた、しょーちゃんこと、庄司投手もグラブを叩いて喜んでいる。

 しょーちゃんが投げて、こーちゃんが打った。

 そして同い年のりゅーちゃんはファインプレー。

 

 あれ?、そう言えばもう一人同い年いたな。

「谷口だけ、今日は活躍していないね」

 隣に座っている谷口に優しく声をかけるとジロッと睨まれた。

 怖い怖い。


 何はともあれ試合は動いた。

 この試合の行方はどうなるか?

 乞うご期待。

 

(すみません、今日はストックが切れて、朝6:00に更新できませんでした。

 明日の分はまだ1文字もありません。

 さあどうなるか…。作者より)

 

 

 

 

 

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