第324話 インタビュアーの仕事も大変ですね
女性アナウンサーがマイクを持っている。
「放送席、放送席、札幌ホワイトベアーズファンの皆様。
本日のヒーローは満塁ホームランを含む、6打点を挙げた、谷口選手です」
ワー、ワー、パチパチパチ。
アウェーとあって、札幌ホワイトベアーズのファンの方々はそれほど多くはないが、チラホラと静岡オーシャンズファンの方も残っているようだ。
やはり古巣ということで、チームの勝敗を抜きにして、谷口の活躍を喜んでくれている方々もいるのだろう。
僕はロッカールームにあるモニターで、谷口のヒーローインタビューを見ている。
谷口の表情は笑顔と言えなくもないが、真顔とあまり変わらないように見える。
「今日は大活躍でしたね」
「はい、ありがとうございます」
あまり表情は変わらない。
もっと笑えよ。
僕はモニター越しにつっこんだ。
「古巣の静岡オーシャンズ戦、先発が相手がドラフト同期の杉澤投手ということで、燃えるものがあったのではないですか」
「はい、そうですね」
それで終わりかい。
女性アナウンサーは続けて何か話すのかと、ちょっと待っている。
相変わらずアナウンサー泣かせだ。
「先制の場面、打った瞬間はどう思いましたか?」
「はい、落ちてくれと思いました」
「ヒットになった瞬間はいかがでしたか」
「はい、嬉しかったです」
相変わらずほぼ真顔に近い。
嬉しくないのかな?
「そしてあの満塁ホームランの場面、どんな事を考えていましたか?」
「はい、夢中でした」
そしてコメントが短い。
アナウンサーもなかなか弾まないヒーローインタビューに戸惑っている。
ファンの方も谷口が声を発するために、拍手をし、歓声を上げているが、ノリが悪いようだ。
「まだまだ交流戦が続きますが、最後にファンの皆様に向けて、一言お願いできますでしょうか」
あまりにも話が弾まないので、アナウンサーも早く打ち切った。
「はい、これからも頑張りますので、応援よろしくお願いします」
ワー、パチパチパチ。
谷口のヒーローインタビューが終わった。
女性アナウンサーの方、お疲れ様でした。
辛い仕事でしたね。
谷口は僕と一緒のヒーローインタビューでは、余計な事をたくさん話してくれたが(304話)、いつもはこのとおり寡黙になる。
しかし谷口も性格なのだろうが、もう少し面白いことを言えないものか。
プロ野球は興行であり、お客様あってのプロ野球選手だ。
今度、谷口に手本を見せてやらないと。
もっともそのためには試合で活躍する必要があるが。
「おい、谷口。お前、もう少し喋れよ。
あの女性アナウンサー、困った顔をしていたぜ」
僕はロッカールームに戻ってきた谷口を捕まえて言った。
「そうか?、俺なりに色々話したつもりだが…」
あれでか。
「お前な今度、「ドラフト7位で入団して」という、WEBの野球小説読んでみろ。
話はつまらないけど、ヒーローインタビューの手本にはなるぜ」
「別にいいよ。俺はプロ野球であって、司会者やお笑い芸人じゃない。
喋りよりもプレーで、球場を沸かせてやるさ」
くそ、格好いいこと言いやがって。
まあ確かに正論だけど。
次の交流戦のカードは泉州ブラックス3連戦。
引き続きアウェーだ。
泉州ブラックスタジアムに入ると、懐かしさが込み上げてきた。
静岡オーシャンズではあまり一軍で活躍できなかったが、泉州ブラックスではそれなりに一軍でプレーした。
だから思い入れは、駿河オーシャンスタジアムよりも強い。
ロッカールームからベンチに入り、グラウンドに出ると、かって見慣れた景色とやや異なる光景が目に飛び込んできた。
ホーム側から見る光景と、アウェー側から見る光景ではこんなにも違うものか。
グラウンドでは泉州ブラックスの首脳陣、選手やスタッフの方々に挨拶して周った。
高台捕手には、今日先発の白石投手の攻略法を伝授してもらった。
最近調子が悪く、特にスプリットに力が無いので、狙い打ちをすると良いそうだ。
他の球は見逃した方が良いとのことだ。
内緒だから、他のチームメートには言うなよ、とのこと。
その手に乗るか。
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