ドラフト7位で入団して

第325話 強烈な恩返し

　泉州ブラックスとの初戦。

　札幌ホワイトベアーズの先発は、青村投手。

　エースで必勝を期す。

　そして泉州ブラックスの先発は白石投手。

　僕とのトレード相手だ。

　高台捕手はスプリットを狙い撃ちしたら良いと言っていたが、今期はスプリットに磨きをかけたことを知っている。

　スプリットは来るとわかってていても簡単に打てる球ではない。

　今日のスタメンは以下のとおり。

　１　高橋（ショート）

　２　谷口（指名打者）

　３　道岡（サード）

　４　下山（センター）

　５　立花（ファースト）

　６　ロイトン（セカンド）

　７　西野（ライト）

　８　武田（キャッチャー）

　９　水木（レフト）

　相手が左腕の白石投手ということから、道岡選手とロイトン選手以外は右打ちを揃えた。

　普段はファーストはダンカン選手が守ることが多いが、今日は腰の張りを訴えていることもあり、立花選手が入っている。

　立花選手は最近は控えに回ることが多いが、かっては二桁ホームランを打ったことがあり、勝負強い。

　ダンカン選手の変わりの４番には、下山選手が入っている。

　また９番の水木選手はスイッチヒッターであり、右左どちらも打てる。

　俊足で長打力もあるが、三振が多い選手である。

　肩があまり強くないことから、今日はレフトに入っている。　

　僕と谷口の一、二番コンビは継続だ。

　試合前のセレモニーを見ていると、懐かしさが込み上げてくる。

　去年の今頃はトレードで移籍することなど夢にも思わず、ひたすらレギュラーを目指していたことを思い出す。

　移籍してからは、ほどんど１番ショートでスタメンに起用してもらっており、僕にとっては良いトレードだったとは思う。

　しかし泉州ブラックスに愛着があったのも、また事実であり、こうしてアウェーチームとしてこの球場のグラウンドに立っていると、複雑な思いは否定できない。

　そして今日の相手先発である白石投手は、トレードで移籍してから、かっての勢いを取り戻したようだ。

　昨シーズンは移籍後は５勝１敗（シーズン通算では８勝６敗）だったし、今シーズンも既に５勝（２敗）挙げている。

　巷では僕と白石投手のトレードは、やや泉州ブラックスが得したと言われており、直接対決となる今日は、札幌ホワイトベアーズに高橋隆介ありという事を是非アピールしたい。

　プレイボールがかかり、１回表、僕はバッターボックスに入った。

　白石投手とは今日も挨拶したし、お互いにわだかまりはない。

　むしろ「両チームにとってWin-Winだったと言われるようにお互い頑張ろう」と声をかけてもらっており、感謝している。

　だが勝負となると別だ。

　泉州ブラックスファンの前で、躍動している姿を見せたい。

　初球。

　いきなりスプリットだ。

　もしスプリットを意識していなければ、振ることはなかっただろう。

　だが僕はスプリット１本に狙いを絞っていた。

　高台捕手の裏の裏の裏の裏をかこうと思っていたのだ。

　そして思ったより白石投手のスプリットは落ちなかったのも、功を奏した。

　僕は脇を締め、思いっきり振り切った。

　打球はレフトに上がっている。

　お願い。

　切れないで。

　僕の願いが神様に通じたのかは定かではないが、打球はレフトポールに当たった。

　わーい、先頭打者ホームランだ。

　僕は札幌ホワイトベアーズファンのみならず、泉州ブラックスファンの声援も耳にしながら、気持ちよくダイヤモンドを一周した。

　今シーズン第２号。

　ホームインの瞬間、高台捕手の方をチラッと見たが、無視された。

　次打者の谷口ともハイタッチし、チームメートからも祝福を受け、ベンチに座り、気持ちよくタオルで汗を拭った。

　古巣の泉州ブラックスから、しかもトレード相手の白石投手から。

　正直言う。

　とても気持ち良い。

　この回は後続の谷口、道岡選手、下山選手と三者三振に倒れた。

　白石投手のスプリットは天下一品だ。

　我ながら、良くホームランを打てたものだ。

　僕は歓声を受けながら、ショートの守備位置に向かった。