第326話 投手戦は続く

 1回表に先制点を挙げたものの、その後は白石投手の前に6人連続で三振に倒れた。


 だが青村投手も負けてはいない。

 エースとしての矜持を見せ、1回裏、2回裏と三者凡退に抑えた。


 そして3回表、8番の武田捕手、9番の水木選手も連続三振に倒れた。

 ツーアウトランナー無しで、僕の打順を迎えた。

 さっきは初球のスプリットをホームランとしたが、二度も続けて甘いボールは来ないだろう。


 初球は外角低めへのストレート。

 見送ったが、ストライク。

 素晴らしい球だ。


 2球目。

 内角へのスプリット。

 見送ったが、ストライク。

 簡単に追い込まれた。


 3球目。

 外角へのスプリット。

 さすがにこれはボールだろう。

 見送ってボールワン。

 カウントはワンボール、ツーストライク。

 

 4球目。

 外角へのストレート。

 頭にあまり無かった球だが、ファールで逃げた。

 このボールをファールで逃げられるようになったのも成長の証かもしれない。

 昔なら見逃しの三振か、空振りをしていた。


 そして5球目。

 真ん中低めへのスプリット。

 落差がすごい。

 わかっていても空振りしてしまった。

 うーん、これで9者連続三振。

 日本記録はいくつだろう。

(作者注:以前までは9だったらしいですが、昨年、佐々木朗希投手が記録した13というのが今の日本記録らしいですね)


 対する青村投手も負けていない。

 3回裏も三者凡退に抑えた。

 息詰まる投手戦になってきた。


 4回表、谷口は辛うじてスプリットをバットに当てて、セカンドゴロ。

 連続三振記録を9で止めた。


 続く道岡選手もサードゴロ。

 バットに球が当たっただけで、歓声があがる。

 そして4番の下山選手は三振だった。

 アウト12個中、三振10個。

 うーん、よくこんなピッチャーからホームランを打てたものだ。

 我ながらちょっとすごいかも。

 そんな風に考えながら、僕は4回裏の守備についた。


 4回裏、青村投手はノーアウトから一番の富岡選手に初ヒットを許したものの、ワンアウト一塁から岸選手にショートゴロを打たせ、6-4-3のダブルプレーでこの回も3人で攻撃を終えた。

 そして5回表裏も両投手とも譲らず、試合は6回中盤を迎えた


 6回表の札幌ホワイトベアーズの攻撃は8番の武田捕手からだったが、平凡なショートゴロに倒れた。

 しかしながら、それをショートの額賀選手がファンブルした。


 札幌ホワイトベアーズとしては、僕のホームランを除けば、この試合初めてランナーを出した。

 しかもノーアウトのランナーである。

 次のバッターは、9番の水木選手。

 ここは当然、送りバントだろう。


 水木選手は初めからバントの構えをしている。

 だが初球の内角低めへのスプリットをバットに当てることができず、空振りしてしまった。


 2球目は外角へのストレート。

 これもバントをするには難しい球であったが、水木選手は何とかバットに当てた。

 これでワンアウト2塁。

 チャンスで、この試合チーム唯一のヒットを打っている好打者、つまり僕の打順を迎えた。


 もしここでヒットなど打って、チームが勝ったら、今日のヒーローインタビューは間違いなく僕だろう。

 谷口に見本を見せてやらないといけないしね。


 そう思っていたら、三球三振に倒れてしまった。

 いやー、やはり素晴らしいスプリットだ。

 これは打てなくても仕方がないね。

 僕はトボトボとベンチに帰った。

 次の谷口はキャッチャーフライに倒れ、この回のチャンスを逃してしまった。


 ピンチの後にはチャンスあり。

 ここまで青村投手は泉州ブラックス打線につけいる隙を与えなかったが、6回裏、 ヒットとフォアボールでツーアウト満塁とされ、迎えるバッターは岸選手。

 僕らはマウンドに集まった。


 「ここまで2打席抑えているとは言え、ここで岸は怖いな」と武田捕手。

 「思い切ってストライクゾーンで勝負するから、内野陣頼んだぞ。

  特に高橋。強い打球が行くからな」

 「了解です」と僕はまじめに答えた。

 この緊迫の場面では、さすがの僕でも合点承知の助とか、ふざけた返答はできない。


 「バカ、ここの返事は合点承知の助だろう」と青村投手。

 「そうだ。みんなをリラックスさせるのもお前の役割だろう」と道岡選手。

 そうですか。それは知らなんだ。

 ファーストの立花選手はにやにや笑っており、セカンドのロイトン選手は意味が分からずキョトンとしている。

 「ホワッツ、ガッテンショウチノスケ?」

  道岡選手が英語で答えた。

 「試合が終わったら教えてやる」と言ったようだ。

  軽く笑いが漏れ、僕らはそれぞれの守備位置に散った。

  このようにくだらない会話も、緊張をほぐすにはよい場合もあるのだ。


 僕はショートのほぼ定位置で、腰を落とし、守備体系を取った。

 さあ来い。


 


 

 

 

 

 


 

 

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